69 脅迫状と襲撃事件について
和泉八重は一つ観念していることがあった。百合菜と由依は黙っておこうと言っていたことだが、八重は思い切って喋ってしまおうと思った。あの脅迫状のこと、そして、体育の時間に起こった襲撃事件のこと。そう思ってみると、刑事の二人はやけに頼もしい存在に思えた。
「実は……」
「どうしたの?」
どんな反応が待っているのだろうか、と八重は少し躊躇しながら、身振り手振りを交えて説明を始めた。
「あ、あの、昨日、私の部屋に脅迫状が届いていたんです!」
「なんだって」
根来が怖い顔でそう叫び一歩前に踏み出したので、八重は臆病な猫のように跳びのこうとして、ガタリと椅子の音を鳴らした。
「脅迫状というのは、あれですね? 脅迫の書状……」
と常に冷静な面持ちの粉河刑事も、幾分興奮した声の調子で尋ねてきた。
「そうです。その、脅迫のしょ、書状です。そこには、紫雲学園の七不思議をこれ以上調べたら、お前たちの命はないぞ、って書いてあったんです」
「七不思議を? 紫雲学園の七不思議ってどんな内容なんです?」
粉河は興味を持ったらしく、少し前のめりに迫ってきた。
「それはよく分からないんです。ただ私の知る限りではボートを漕ぐ河童とか、弁天堂のトランペットとか、そんな変てこなものばかりなんです」
「ふうん。変わっていますね。しかし、それを調べたらお前たちの命はない、というのはなんだかおかしな気がしますね。調べても一向に構わない気がするけど。まあ、ただの脅しでしょうが……」
「それが脅しだけじゃなかったんですよ。明日証拠を見せるって書いてあって、今日、本当に体育の授業中に刃物を持った黒い人影が現れたんです」
八重は、体育の授業中に起こったことを説明した。由依が追いかけて、襲われたこと。しかし、何故か無事に生き残ったこと。根来と粉河は心底驚いたらしく、夢中になってその話を聞いていた。
「そんなことがあったのなら、すぐに警察に連絡しないと駄目じゃないか」
と根来は、他人事と思えないのか、我が子を心配して叱るように言った。
「ごめんなさい。でも、私たちこれでも真剣に調査中だったんです。七不思議の謎は、百合菜のお兄さんの死の真相につながるものと考えられていましたから」
「お兄さんの死、にね。しかし、それをどうやって知ったの?」
粉河はすっきりしない口調だった。
「えっ?」
「七不思議がお兄さんの死の真相と関係があるというのは何を根拠に……?」
「え、ええ? ん、それは、百合菜に聞いてください……」
よく考えると八重はそのことをよく知らないのだった。七不思議がどうして百合菜のお兄さんの死の真相と関係あるというのだろう。実のところ、八重はお兄さんの死の関してもほとんど知らないし、相変わらず、百合菜はミステリアスな美少女なのだった。
「しかし、君たちの命が狙われているのが事実だとしたら、今回の殺人事件と関連があるかもしれない。その脅迫状は調べた方がいいだろう。すぐにこちらに提出するように」
と根来が言うと、何か考え事を始めた。
「しかし、紫雲学園の内部のことは大人には見えてこないものだ。どうやって捜査するかな……」




