65 夏目部長の混乱
次に部屋に呼ばれたのは夏目部長だった。しかし、現れた夏目部長は死人のような青い顔を浮かべていた。相当、部員の死がショックだったと見えて、その視線は床を這うばかり、ふらついた足取りで、手は小刻みに震えていた。
「どうぞ、こちらへ」
と粉河が椅子に座ることを勧めると、夏目部長。
「刑事さん……」
「はい」
「あの子を殺したのは誰なんですか」
「えっ」
粉河は突然そう問いかけられて息をのんだ。自分を見つめる夏目部長の目が人とは違う何か恐ろしいものに感じられたからだった。
「それにつきましては現在、警察が捜査をしている最中です。そのためにもご協力ください」
「警察の捜査……なるほど。私もできるだけのことをいたしましょう。でも、警察がいくら捜査をしても、この学園の深い闇は根っこからは堀り起こせないでしょう」
夏目部長の声には警察を嘲笑っているかのような不気味な響きがこもっているようにも、捜査を行方を悲観しているようにも取れた。
「何です。その、学園の闇とは……」
「紫雲学園の闇とは……それはこういうものです。ある人が私に笑いかけてきたとしましょう。その微笑みはとても晴れ晴れとしたもので、とても何かに思い悩んでいるとか、苦しんでいるといった素振りを見せてはくれません。しかしその胸の奥は病魔に侵されていて、拭い去れない罪の意識にとらわれながら、なおそのことを打ち明けられずに苦しんでいるのです。そうして偽りの笑顔のまま、ついには墓場まで秘密を道連れにしてしまう、こういうことを刑事さんはどうお考えですか?」
「一体それは何のことですか」
粉河は意味が分からず、驚いて尋ねた。
「……いえ、なんでもありません。私、ちょっと疲れているんです」
「そのようですね」
粉河は、夏目部長が錯乱していると感じた。どうするべきだろうと根来の方に振り返る。根来はとりあえず頷いて返した。
意気消沈しているとは言え、落ち着いているように見えた夏目部長だが、突然、自分の髪を握りしめた。
「淀川さんが亡くなるなんて……!」
夏目部長は興奮気味に叫んだ。そして顔に手を当てると涙をこぼし、弾かれたように椅子から立ち上がった。そして、うわっと苦悩の叫びを上げた。
「落ち着いて」
粉河は急いで夏目部長を抑えようとした。しかし女子生徒と思って侮っていたが、予想外に腕力があり、粉河は強く頬を叩かれた。粉河は思ってもみなかった状況に驚いて引き退った。
「アアアア……!」
夏目部長は取り憑かれたように喚きながら、その狭い個室の中を舞うように逃げまどった。それは半狂乱の巫女のようだった。そして夏目部長ははっと天井の近くの宙を見上げて、ぴたりと静止したかと思うと、だんだん力を失って終いには床に座り込んでしまった。
粉河は自分の赤くなった頬を抑えながら、夏目部長にゆっくり近付いた。
「大丈夫ですか」
こんなことがあってから、夏目部長はまた意気消沈している様子に逆戻りし、粉河と根来に捕まって椅子に座り直した。
「取り乱してごめんなさい」
「いえ、無理もないですよ」
と粉河は明るい声をかけた。




