62 粉河刑事の推理
しばらくしてから、由乃を一旦別の教室に戻すと、根来は粉河に尋ねた。
「今、どういう状況なんだ?」
「どういう状況って、何がです?」
「粉河、さっき何か分かったような顔してただろ? 何が分かったんだ?」
どうやら根来は捜査に付いてこれていないらしい。
「はあ」
「頼む。教えてくれ」
粉河はやれやれと頭を掻くと、根来に事件の説明を始める。
「まず被害者の紙コップに青酸カリを入れられたのはいつ頃なのか、これが問題ですね」
「うん」
「ミーティングの前か、ミーティングの最中か……」
「そうだな」
「ミーティングの最中だとしたら、それが可能なのは、彼女の隣に座っていた宮沢史奈さん、あるいは石田宗次君の二人だけだと思われます……」
「それは確かにそうだ」
すると、やはりその二人のどちらかが犯人なのだろう、と根来は思った。
「しかし、考えようによっては他の人間にも犯行が可能です。つまり、ミーティングの前に青酸カリが入れられた場合です」
「ふむふむ」
「しかし、淀川さんが会議室に現れたのは、夏目部長と古宮君が階段に向かい、それを追って山吹由乃さんが会議室を出ようとしている時でした。この三人は出て行ってしまいました。会議室には二人しかいませんでした。被害者と柏崎君。そのタイミングで紙コップに青酸カリを入れられたのは、柏崎君しかいません」
「そうだ。じゃあ、柏崎君が犯人だ!」
なんだ、宮沢、石田の二人なんかよりずっとそっちの方が怪しいじゃないか、と根来は思った。
「待ってください。その後のことも検討してみましょう。そこに山吹由乃さんが戻ってきます。この時のことを柏崎君がどう証言するかが問題となります。山吹由乃さんに青酸カリを入れるチャンスがあったのか。この後、宮沢さんと石田君が入ってきました。二人は被害者の両側の席についてしまいます。古宮君が戻ってくるのはさらにその後になります……」
「宮沢、石田犯人説は相変わらず有力だな。しかし、すると残りの夏目部長や古宮君、山吹由乃さんには青酸カリは入れられなかったということになるのか」
「その点なのですが、あらかじめ紙コップの内側に青酸カリを塗っておけば他の人間にも可能だったのではないかと思います」
「そんな手があったのか!」
「ありますよ。その場合、紙コップを被害者に配った人物が一番疑わしいことになります。その人物が山吹由乃さんです」
「女子中学生だぞ……?」
さすがにそれはないだろう、と根来は訳が分からなくなった。
「ええ。私は、彼女が犯人なのではないか、とも考えたのですが、しかし由乃さんの話では、紙コップはあらかじめ席に一つずつ置いたおいただけだし、淀川さんがどの席に座るかは分からなかったようです。また由乃さんが、淀川さんの紙コップにりんごジュースを注いだわけでもない。ということは、夏目部長、山吹由乃、古宮政幸の三人には、被害者を狙っての犯行は不可能だったということになります」
「無差別殺人なら分からんが、確かに被害者を選んで青酸カリを飲ませることはできないな……」
根来はううむと唸った。
「とにかく、その柏崎という生徒が怪しい。何しろ、会議室で被害者と二人っきりになった唯一の生徒だからな」
途端、根来は鬼のように叫んだ。
「その柏崎という生徒をここに連れて来い!」




