↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/197

61 十四歳の証言者

 事情聴取をひとまず終えた粉河は、宮沢史奈を部屋に帰し、続いて中学生の山吹由乃(やまぶきよしの)を呼んだ。

 しばらくして、ひよこのような少女が部屋におずおずと入ってきた。小柄なジャージ姿、黒髪を短く切り揃えているスポーティーで地味な外見、よく見ると健康的な白い肌がてかり、丸いおでこにピンク色のニキビを拵えて、丸っこい鼻とちょっと情けなさげなたれ眉が可愛らしい、あどけない子供といった印象の少女だった。


「こ、こんにちは」

 と由乃は粉河に小さな頭を下げる。

「君が……山吹由乃さん?」

「はいっ、よろしくお願いします!」

 由乃は思い切り緊張しているらしく、そう叫んだ。どうにか椅子に座ってからもふるふると震えている。

「学年は……」

「中等部の二年生ですっ」

「年齢は……」

「十四歳ですっ」

「中等部の部員は君一人なの?」

「は、はいっ、そうなんですっ」

 粉河はがちがちに緊張している由乃の姿を見て、なんと声をかけたら良いのか分からなくなった。


「そうなんだね。でも、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

「あ、あのっ」

 由乃は粉河に助けを求めるような声を出して、斜め上をちらりと見上げた。そこには根来が腕組みをして、鬼のような表情で由乃を見ろしている。根来は、怒っているわけではないが、捜査中なのでそんな表情なのである。由乃は慌ててまた目を背ける。そして、さも恐ろしいと言わんばかりの震えたため息をついた。粉河はようやくそれに気づいた。

「ああ、このおじさんの顔が怖いんだね。大丈夫だよ。ほらっこのおじさん、顔は怖いけど根は優しいんだよ。ほーら」

 と粉河はにこやかに笑いつつ、立ち上がって根来の頬をつねった。

「お、おいっ……や、やめろっ。いてぇっ!」

 根来が苦しげな声を上げる。それを見た途端、由乃は笑い出した。

「あははっ、なあんだっ、怖くないんですね……」

「そうだよ。君もつねる?」

「ふふっ。ちょっとそれは遠慮しとこうかな……」

「そうだね。つねったところで面白くもなんともないからね。それじゃあ、緊張が解けたところで事件の話を聞かせてくれる?」

「はいっ!」

 由乃の声は人が変わったように明るかった。

(お、お前たち……)

 根来は、粉河と由乃の顔を交互に睨みつけた。


「それで、あの紙コップについて、だけど……、あの紙コップはどこにあったものなの?」

「文芸部の部室にありました。部員であれば、誰でも触れたはずです」

「君が持ってきたんだね?」

「はい。私が紙コップの束を持って、会議室に行くと、すでに夏目部長と柏崎先輩がいました。私はふたりに挨拶をして、持ってきた紙コップを一つずつ渡しました。それで、残りの席にも紙コップを一つずつ置いていったんです……」

「なるほど。紙コップはその時に置かれたんだね。夏目部長と柏崎先輩は、他の人の紙コップに触ったりしてなかった?」

 由乃は首を横に振る。

「触っているところは一度も見ませんでした。しばらくして古宮先輩が入ってきて、柏崎先輩の隣に座りました。私は古宮先輩にも紙コップを渡しました。三人が集まったところで、りんごジュースを部長から順に注ぎました。夏目部長の紙コップに注ごうとしたら、思いっきり床にぶちまけてしまいまして、ええ、大惨事ですよ。床がりんご味になりました」

 この山吹由乃という子は、かなりのドジらしい。床がりんご味にになったとかいうことを大真面目に熱弁している。


「床をりんご味にしたの?」

「拭いたから大丈夫です。ですから、あのりんごジュース、ペットボトルに半分くらいしか残っていませんけど、その時の三人くらいしか飲んでいないんです……あとは床に持ってかれました」

「それは大変だったね。あのりんごジュースは誰が買ってきたものなの?」

「ウーロン茶とりんごジュースは、夏目部長が日曜日に長月駅で買ってきたものです」

「夏目部長が……」

 粉河は、少しはっとする。しかし、すぐに表情を消した。


「その後、夏目部長が古宮先輩にちょっと話があると言って、二人で出て行きました。仲良いですよね。実はあの二人は付き合っているんじゃないのかなって私、疑っているんです。今日は、証拠を抑えようと思っていると、会議室に淀川先輩が入ってきました。私、淀川先輩と入れ違いに外に出て、階段のあたりまで行きました。すると、古宮先輩と夏目部長が真剣に階段の踊り場で話し込んでいました」

「すると、君は淀川さんの紙コップにはりんごジュースを注いでいないの?」

「注いでません。それどころじゃないですもん」

 なるほど、すると淀川さんの紙コップにりんごジュースを注いだのは誰だ? と粉河は首を傾けた。


「それで、古宮先輩と夏目部長は階段で何の話をしていたの?」

「やっぱり刑事さんも気になります? 残念ながら、何を話しているのかは聞こえませんでした。それで私、会議室に戻ることにしたんです。そしたら、淀川先輩が席に座っていて、柏崎先輩は自分の詩のチェックをしていました。その後、宮沢先輩と石田先輩が入ってきて、さらに遅れて古宮先輩が戻ってきて、その後に夏目部長と和泉さんと見学の二人が入ってきたんです」

「なるほど、よく分かりました。君の見える範囲で、淀川さんの紙コップに触れた人物はいなかったわけだね?」

「いませんでした……」

 由乃は自信ありげに頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。