59 川野辺刑事の尋問
挿絵は、成宮りん様が描いてくださいました。
驚いている祐介に、根来は説明を付け加える。
「ああ、事件が起こったのは文芸部のミーティングの最中だった。その場には、その和泉八重っていう生徒もいたんだよ」
「そうだったんですか」
と祐介は頷いたっきり、何も言わない。
「そういうわけだから事情聴取が済むまでは、お前とも会わせてやれない。しかし、警察の監視下にいるから、心配には及ばないよ」
と根来は優しく言うと、また祐介の耳元でそっと、
「俺は現場に戻るから、お前はここにいな」
と告げた。
現場に戻った根来は、ぐいっと太い腕を組むとホワイトボードを睨みつけた。そこにはわずかな板書が遺されている。会議室を見回すと、死体はすでに運び出されている。
「粉河、どう思う。この殺し……」
「どうもこうも、あのりんごジュースについて文芸部の生徒たちから詳しい話を聞かないことには始まりませんね」
「そうだな……」
「現在、川野辺刑事が事情聴取をしているようですが……」
「ああ、そう。ちょっと様子を見に行ってみるか」
文芸部の生徒は、近くの空き教室に集められていた。一人一人個室に呼ばれて川野辺刑事に質問を浴びせられていた。根来と粉河が個室に乱入した時、そこには宮沢史奈という女子生徒が椅子に座っていた。黒髪の短い髪を変なところでピン留めしていて、丸いおでこが出ている。小さな目がちょっと不安そうに動いている。
「おう、事情聴取進んでいるか」
と根来が低い声で尋ねると、
「へい。順調に進んでいます。今から、こちらの宮沢さんの事情聴取を始めるんで……」
川野辺はそう答えて、こほんと咳をすると、その人見知りそうな少女に話しかけ始めた。
「これは学校の面接かなんかだと思って、気楽にお話ししてほしいのですが、宮沢史奈さん、あなたは紫雲学園の二年生ですね?」
「……は、はい」
「被害者の淀川さんとはどういう関係で?」
「……別に、文芸部の同期というぐらいですけど」
「仲はよろしかったので?」
「……はい。仲はそれなりに……」
「それなりにと申しますのは、どういうわけで……?」
「い、いえ、別に……」
「ふうん。別に……。するとすごく仲の良い間柄ではなかったわけですな」
「親友というわけではなかったので」
「えっ?」
「………」
「何とおっしゃいました?」
「……あの、その」
根来は、遠慮のない川野辺の質問の仕方になんとなく腹が立って、
「親友というわけじゃなかったから、すごく仲の良い間柄ではなかったと、そういうことだ」
と川野辺に伝えた。
「ああ、親友ね。どうもそこが聞き取れなかったもので。それでは次です。ええとですね。亡くなられた淀川さんの飲んでいたりんごジュースのペットボトル、あれに触りましたか?」
「……え、りんごジュース」
「そう。ありましたよね。テーブルの上に」
「はい」
「触りましたか……?」
「触ってないと、思うんですけど……」
「紙コップには触りましたか?」
「紙コップ……淀川さんの飲んでいた……」
「それです。淀川さんの飲んでいた紙コップには触りませんでしたか?」
「触ってないと思います……」
「本当に……?」
「………」
紙コップか、と根来は思った。犯人がどのタイミングでそこに青酸カリを放り込んだのか、それが問題となるだろうと思った。
それはそうとして、川野辺刑事の尋問は粘着質であまり、よろしく思えなかったので、粉河刑事と交代させることにした。




