58 校長室の不審者
根来警部は、一号館の一階にある校長室に向かった。校長室のドアの前にも警察官の姿があった。
「ここだな」
根来は大きな音を立てて、ドアを開けた。室内には観葉植物がいくつも並び、黒光りした高級なソファーが二つ並んでいる。ガラスケースには賞状や色紙が飾られている。正面には大きな窓があって、その先には日本庭園が広がっている。その窓の前に幸田という校長が後ろ向きに立っていた。
彼は振り返った。スーツ姿の六十代ぐらいの男性、いかつい顔つき、気難しそうな口元、綺麗に撫でつけられた白髪。
「私が校長の幸田ですが……」
「群馬県警の根来です。実は、校長室に不審者がいると聞いて来たのですが……」
「私のことですか?」
「いや、あなたは校長先生でしょう……」
「冗談ですよ。笑ってください。実は私もはじめは彼のことを不審者かと思ったのですがね、話を聞いているうちに割としっかりした人だったので、インターネットで調べさせて頂いたのです。そしたら、不審者なんかではなくて……。いえね、つい先ほどまで色々と話し込んでいたのです。そこに座っていらっしゃいますよ」
「どこに……」
根来が振り返ると、死角となっていた安楽椅子に羽黒祐介が座っていた。
「根来さん。お久しぶりです」
「なにしてんだ、お前……」
すると祐介は立ち上がり、根来の側に寄って、小声で話しかけてきた。
「実は大変な目に遭っていたんですよ。僕は女子生徒に不審者と勘違いされて、この校長室に連れてこられ、そして長い時間、酷い扱いを受けていたんです。それがある時から、突然、誤解が解けたんです。よく分からないのですが、ころっと態度が変わって……。それで、四年前の事故についての詳しい話まで校長先生から伺ってしまいました」
「それは良かったな。欲しかった情報が手に入って……」
「いや、僕はそんなことより、従兄妹の身に何かないかと心配で仕方がなかったんです。それなのに校長先生ったら僕を離してくれないんですよ」
と祐介は曖昧に笑うと、少し困った顔で、
「そうこうしているうちに事件が起こってしまって……」
すると校長の幸田は歩み寄ってきた。
「私も最初は彼を不審者だと思いました。ところが羽黒さんは、池袋に事務所を構えている有名な探偵さんなんですって? あの赤沼家殺人事件を解いたのも、青月島殺人事件を解いたのも、五色村殺人事件を解いたのも羽黒さんだというではないですか……」
「はあ」
根来は、反応に困って頷いた。
「それで四年前の生徒の事故について知りたいご様子だったので、私は丁寧に状況を説明していたんです」
「大変、勉強になりました」
羽黒祐介はふらっと背を向けた。
「それでは、僕はこのあたりで……」
「まてまて」
根来は慌てて祐介を止める。
「帰るったって帰れねえよ。二号館で殺人事件が起こったんだ」
「知っていますよ。殺されたのは淀川多恵さんという女子生徒ですね」
「知っていたのか。それにしちゃ、やけに冷静じゃねえか」
「ええ。四年前の事件と関連があるかどうかは不明ですが、注目はしています」
と祐介は涼しい顔で言った。
「とにかく従兄妹に会わないことには僕は落ち着きませんので……」
「なんて子だ?」
「和泉八重……」
「その子、容疑者の一人だよ」
「えっ?」




