57 どこに座っていたか
「じゃあ早速、誰がどこに座っていたのか教えてもらおうか」
と根来が言うと、川野辺は、頭を掻きながら、状況の説明を開始した。
「へぇ。まず、この会議室なのですが、見ての通り四角形です。入り口は南側の東の角にありますね。まずテーブルの南側の右端、つまり一番入り口に近い席に座っていたのが夕紀百合菜ちゃん。その左隣が田所由依ちゃん。それが南西の角の西側に座っていたのが、和泉八重ちゃん。その左隣に柏崎隼人君。その左隣に古宮政幸君。その左隣に座っていたの宮沢史奈ちゃん。そこが北西の角で北側にまわって被害者。その左隣が石田宗次君。部長の夏目灯里さんは、東側の席にひとりで座っていました」
「なんだか、口頭で言われてもよく分からん」
と根来が不満げに言ったので、川野辺はメモ帳に生徒の名前を書いた。
「こんな感じなのですが……」
「なるほど。よく分かった」
根来はなんとなく、ミステリー小説に出てくる図みたいだな、と場違いなことを思った。
「実は現場にはもう一人、生徒がいたんですがね……」
「なに? じゃあ、書き忘れじゃないか。書き足しなさい」
「いや、そうじゃないんです。席の用意されていない生徒が一人いたんです。山吹由乃ちゃんっていうですがね」
「それは問題だな。可哀想じゃないか」
「いえ、それがそうじゃないんで、ホワイトボードの傍らに立っていて、いつもなんか書いたりする役なんです」
「板書の係か」
「それに先輩が持ってきた原稿をみんなに配ったりと、なにかと移動の多い役なんです」
「ずいぶん大変な役目だな」
「まだ中学生なんです」
「なに、中学生……?」
根来はそういえば、と気づいた。この学園は中高一貫校だったっけな、しかし、一人だけ中学生だからといって、そんな大変な役目にまわされるとは文芸部もちょっと運動部みたいだな、と色々思った。
「まあ、つまりホワイトボードの隣にもパイプ椅子がちゃんとあったんですが、座らずにいたわけです。それでみんなの意見なんかをホワイトボードに書いていた……」
そうか、と根来は思ってホワイトボードを見ると、そこに「和泉さん 清景がうかぶ 考えすぎ (古宮さん)」と書かれていた。
「字が間違ってるよ……」
と根来はやれやれと思った。「情景」を「清景」と書いてしまっている。漢字が苦手なのだろう。今の文芸部は、きっとはじめからパソコンで書いているのだろう、と根来は時代を感じた。
「しかし、こうして見ると殺しが出来たのは、淀川多恵の両側にいた宮沢史奈と石田宗次の二人だけだな」
「そうですね。物騒な話ですが……」
「調べてみるか」
そこで、川野辺はこほんと咳をすると、また何か重要なことを話し始めようとした。
「ごほっごほっ、す、すんません。あ、あの、ごほぉっ」
「どうしたどうした」
「い、いえ、どうも咳き込んでしまって。嫌ですね。あのぉ、実はですね。今日、不審者が一人現れて、女子生徒に声をかけたのだとかで、現在も校長室にいるらしいのですが、連れてきますか?」
「なに、何故それを早く言わない。ここに連れてくることはない。俺が校長室に行こう!」
根来は、犯人を捕まえたような気分になって、粉河を連れて、会議室を出て行った。




