52 柏崎先輩の詩
八重は、その言葉にほっとして、あたりを見回した。誰かが意見を述べるものかと思われたが、一向にその気配はなかった。しばらくして、例の古宮という男子生徒が口を開いた。
「情景が目に浮かぶようで結構ですが、少し考えすぎているようですね」
古宮は、そう言って、また黙った。
考えすぎている……。八重はどちらの意味だろうと思った。この詩が考えすぎて堅苦しいのか、私が柏崎先輩のことを考えすぎているというのか。おそらく前者の意味だろうが、今の八重には後者としか捉えられなかった。
次は、柏崎先輩が詩を発表する番だった。柏崎先輩が鞄の中から人数分の紙を取り出している。
そんなものを眺めているうち、八重は目の前に紙コップが伏せられていることに気づいた。テーブルの中央には、りんごジュースのペットボトルが置かれていた。その隣には、ウーロン茶のペットボトルもあった。どちらも1.8リットルのものだった。そんなものが目に入らなかったのは、自分がよほど緊張していた証拠だと八重は思った。
よく見ると、まわりの人間の前には紙コップが一つずつ伏せられているのだった。八重は、柏崎先輩が枚数を数えたりしているうちに、自分の前の紙コップを手に取って、中を覗いてみた。そして、なんてこともないので、またテーブルの上に置いた。
「別に飲んでいいんだぜ?」
と柏崎先輩は軽く笑って言うと、八重に一枚の紙を手渡した。それは、活字が印刷されたコピー用紙だった。
八重はちょっと驚いた。
「ちゃんと人数分、印刷してきたんですか……」
「それが普通だよ」
と言って、柏崎先輩は笑った。大したことではなかったのに、八重はその言葉にひどく傷ついた。
*
凝り固まった脳髄と
うだるような春の陽射し
古びた城を遺し続けようとして
憐れなる住人たちは
語り部を殺し続けていた
まどろみの中から
そんなことは無意味だと叫び続けている
ひとつの魂
揺らめくその光の下に
新たなる死体が輝く
*
「これはどういうことですか」
と鋭く叫んだのは、夏目部長だった。
八重ははっとして夏目部長の目を見た。彼女の目は怒りにも燃えていた。しかし、八重にはその怒りの意味が分からなかった。
「どうもこうもないさ。感情的になるなよ……」
と柏崎先輩は鋭い視線を夏目部長に向けた。夏目部長は、みるみる顔を青ざめさせて、その手渡された紙を伏せた。
「時々あなたの考えが分からなくなる時があります」
とだけ言うと、彼女はもう何も言わなかった。
……柏崎先輩はテーブルの上を見つめたまま口を閉ざしていた。




