51 八重の詩、発表
「それでは、皆さん。自分の詩を提出するのです」
と夏目部長が言うと、会議室にいる人々はもぞもぞと動き出した。八重は恐る恐る鞄の中から一枚のプリントを取り出した。このプリントの裏に八重が授業中にしたためた詩が記されているのだ。しかし、こうして人前に出すのにはもうひとつ勇気が足りなかった。実際、背筋がこわばってどうしようもなかった。おまけにあんな恐ろしい襲撃事件があったばかりなのに、こうして何の対処もせず、じっと椅子に座っているのもなんだかおかしい気がした。
「じゃあ、和泉さんから……」
後輩から順に発表するのが決まりなのか、夏目部長は真っ先に八重を指名した。
「あの……」
「どうしました?」
「このプリントに書いたんですけど……」
「見せなさい」
「はい」
八重は、夏目部長にそのプリントを渡した。夏目部長は、プリントを裏返すとその詩に目を通した。そして、ふうとため息をつくと、そのプリントを柏崎先輩に手渡した。
「ふうん」
と彼女は呟いた。
それはこんな詩だった。
*
白い校舎にたったひとり
子どもみたいな私が踊っている
空に恋を歌っている
あなたはどこまでも飛んでゆく鳥みたいだけど
私のこと見えていないみたい
あなたはいつも遠い空ばかり見ている
緑色をした森の中でも
私は夢に出たあなたを想っている
こんなにふたりの幸せを願っている
それでもあなたはあの山並みや海ばかり見ている
私のことなんて忘れて
どこか遠くに行ってしまうのね
*
八重は、授業中に咄嗟に書いたこの詩を自ら読み解いていなかった。まじまじと部員に回し読みされているうちに、これは柏崎先輩への片想いを書いた詩だと自分で気づいて赤面した。
(なんて詩を発表したんだろう……)
八重が、まだ小学生ぐらいだったら、わっと叫んで立ち上がり、その場から一目散に逃げ出してしまったかもしれない。しかし、もう高校生である彼女にそこまで正直な行動は許されていなかった。仕方なく八重は、顔を赤らめながらテーブルに伏せて、感情を隠していた。
実は「白い校舎」と「森」というワードは、柏崎先輩の「柏」の字を分解した二文字「木」と「白」からの連想を、紫雲学園の景観と結びつけたもので、その点から言っても、ほとんど柏崎先輩への片想いを書いた詩と言って良かった。
しかし、八重は自分の本心がみんなにばれてしまったような、つまり柏崎先輩への片想いが見透かされてしまったような羞恥心に苦しめられた。それは、部員全員の前で召しものをことごとく剥ぎ取られて全裸にされたような、とてつもない恥ずかしさだった。
「あ、あの……」
と八重が声をかけると、夏目部長は深く頷いた。
「良いんです。説明はいりません。あなたの世界はよく分かりました。大事にしなさい……」
と夏目部長は言って、黒眼鏡のフレームをちょいと指先でいじった。




