48 羽黒祐介、焦る
祐介はこの状況に焦った。どうやら、自分は思いきり不審者に間違えられているようだった。しかしここで狼狽えて不自然な発言をすれば、かえって怪しまれてしまうだろう。なんとか、身の潔白を訴えなければならない。
「実は、従兄妹に会いに来たんです」
「ほお。従兄妹に……。すると、我が校の生徒ですかな」
「ええ。従兄妹は和泉八重という名で、確か一年E組の生徒だと聞いていたのですが……」
校長は、顎を撫でながら頷いた。祐介はそれを見て、自分は信用されたのだと思ってほっとした。ところが、校長はこんなことを尋ねた。
「本日は、面会の予約は済ませておいでですかな?」
「えっ、面会の予約……?」
祐介は、驚いて聞き返した、やっぱり事態は悪い方向に進んでいるなと感じながら。
「ええ。我が校は全寮制の高校ですからね。年頃の女子生徒も大勢寝泊まりしているわけで、どなたでも自由に出入りできる場所ではないのですよ。生徒と面会する際は必ず、事前に生徒の側から事務室に予約を入れておく必要があるのです。そして、保護者の方も来校したら、まずはじめに事務室を訪ねて、入館許可証を受け取るようにしてください。失礼ですが、こうした手続きをちゃんと済ませておいでですかな?」
「いえ……」
祐介は答えに窮した。無論、手続きなど何もしていないし、そんなことが必要だとも思わなかった。気がつけば、校長の威圧感は、ただならぬものとなって祐介に覆いかぶさっていた。
「手続きのことは、何も知らなくて……」
「そうですか。しかし、生徒たちには入学時に何度も説明していますが……?」
校長は、もはや敵を脅しつけているようですらあった。
「すみません。あの、手続きを済ませずに立ち入ったたのがまずかったのはよく理解できたのですが、一度、和泉八重という生徒に会わせていただければ、僕が彼女の知り合いであることははっきりすると思うのですが……」
「それはできません。正式な手続きを済ませていない方を生徒と面会させることなど言語道断です。ましてや、うら若き、花のような女子生徒に会わせることなど……。彼女たちは今、とても多感な時期なのです。失礼ですが、あなたはどのようなご職業の方なのですか?」
「僕の職業ですか……」
なんというか、台本にあらかじめ書かれたシナリオのように、自分に都合の悪い方向にばかり話が進んでゆくな、と祐介は呆れた。しかし、こう尋ねられて嘘をつくわけにもいかない。
「私立探偵です……」
「た、探偵……?」
その途端に校長の両眼が鋭く輝いた。探偵だなんて、なんて胡散臭い職業なのだろう、とでも腹の底で思っているかのように、校長は露骨で嫌な視線を祐介に容赦なく浴びせた。
「探偵って……人を背後から尾行したり、他人の住居に侵入したりして、プライバシーを調べ上げて、依頼人にその個人情報を依頼人に流し、多額の報酬を得る、あの……」
「い、いや、そのイメージはかなり偏っているようにも感じるのですが……」
祐介は、こりゃ参ったな、と頭を二回なでる。こういう人って小説の読みすぎなんだよな、まったく困ってしまう、自分はミステリー小説の探偵なんかじゃない、現実の探偵なんだよ、と祐介は不満に思った。
しかし、校長の疑いの目は変わらなかった。
「すみませんが、ちょっと校長室までご同行願えますかな?」
……祐介は、なんだか警察に捕まったような気分だった。




