47 羽黒祐介、警戒される
時間は少し遡って、昼頃のことである。羽黒祐介は、初めて歩く紫雲学園の校内で、道が分からず戸惑っていた。歩道を通り過ぎる女子生徒たちは、あれは誰だろうという好奇の目で祐介のことを見ている。祐介は、これでは不審者だな、と思った。不審者に見えるかどうかはともかくとして、祐介は絶世の美男子であるから、歩いているだけでも目立ってしまうのである。
とにかく、八重たちの所属している一年E組の教室に行こうと祐介は思った。しかし、それがどこにあるのかまったく分からなかった。誰かに聞こうと思い、立ち止まってあたりを眺めると、髪の長い女子生徒が歩道沿いのベンチに座って、サンドイッチを食べているのが見えた。祐介は、彼女に場所を訊こうと思った。もしも、不審者と間違えられそうになったら、八重の従兄妹であることを正直に話そう。百合菜に調査を依頼された探偵であるとか、そういう余計なことは言わないでおこうとも祐介は思っているのだった。
祐介は、その女子生徒の隣に座った。教室の場所を訊きだすための自然な成り行きをつくるんだ、と祐介は意気込んで、女子生徒の方を見た。女子生徒は黒縁眼鏡をかけていて、いかにも才女といった印象だった。膝の上のお弁当箱にはサンドイッチが詰められている。
「おいしそうだね。自分で作ったの?」
「えっ」
女子生徒は、呆気にとられた様子で、祐介の方をじっと見た。そして、何と答えてよいのかわからないのか、
「はい」
とだけ答えると、うつむいた。そして、なんか知らない男性に声かけられちゃったよ、参ったな、と言わんばかりに髪をかき上げた。思いきり冷ややかな反応だった。
なんか気まずい空気が流れたから、祐介は他の生徒に尋ねようかとも思ったが、よく考えるとそんな時間はない。昼休憩が終わると授業が始まってしまい、八重や百合菜に会えなくなってしまうのだ。もうこうなったら、単刀直入に本題を尋ねるしかない。
「ねえ、君、一年E組の教室ってどの建物にあるか知ってる?」
と祐介は尋ねた。
女子生徒は、さらに驚いたような呆れたような表情を浮かべて、祐介の顔をまじまじと見つめた。そして、また顔を背ける。
「さあ、知りません」
「そう。そうなんだ……」
知らないはずはないだろうという気もしたが、自分が警戒されているように感じられて、祐介は焦った。なんとか弁解しないとどうにも心地が悪い。
「一年E組に、和泉八重って生徒がいると思うんだけど……」
そこまで話すと、女子生徒は立ち上がった。
「少々お待ちください」
女子生徒はそう言うと、向こうから歩道をのろのろと歩いてきている白髪のスーツ姿の男性に向かって、走っていった。
女子生徒はなにごとか、その白髪のスーツ姿の男性と話し込んでいる。その男性はいかにも気難しそうな皺の寄った顔つきで、歳は六十代といったところだろうか。男性はこちらに向かった歩いてきていた。厳しい表情をしている。そして低い声で一言。
「校長の幸田ですが、我が校の女子生徒にどんな御用ですかな」




