表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/197

40 授業を真面目に受ける三人

 ところが、そんな三人の不安をよそに午前中の授業も、昼食も、午後の授業も平凡で退屈なままに過ぎていった。つまり平和であったということだ。どこからか射られた矢が飛んでくることもなく、昼食に毒が盛られていることもなかった。爆弾が爆発することもなければ、地割れが起こることもなかった。

 由依を見ると、彼女はきょろきょろと窓の外ばかり眺めていたので、終いには先生に怒られてしまった。

「先生の話を聞いているのか、田所!」

「えっ……いやだな、先生。ちゃんと聞いてますよぉ、ふふっ、はははっ」

「先生が今、何を話していたか、言ってみなさい」

「……すいません。聞いてませんでした」

「ほらぁっ……やっぱりぃ」

 

(何も起こらないのかな……)

 八重はペンを指先でまわした。ペンは一回転せずに机の上に落ちた。このまま何も起こらずに終われば、それに越したことはないが、それも気分がすっきりしないだろうな……と八重は思った。


 八重は、午前中の数学の授業は何をやっているのかさっぱりわからず、まるでついていけなかった。午後の現代文はたいした内容じゃなさそうだったので、少しも興味が湧かなかった。先生の説明はお経か子守唄のように聞こえた。

 そうこうしているうちに、八重は気持ちに余裕が出てきて、何か恐ろしいことが起こるのではないかという不安は、何か起こってほしいという期待に変わっていた。しかし、それは一向に叶わなかったので、八重はプリントの裏にシャープペンシルの芯を走らせた。

 そうだ、詩を書かなければ、と思ったからだった。


(また、あの詩を書こう…)

 八重はいつか、くしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱に捨ててしまったあの詩のことを思い出していた。

 どんな詩か、はっきりとは覚えていなかった。しかし、百合菜のことから書き始めるのだ、ということだけは覚えていた。

「転校生はミステリアスな美少女……」

 八重は小さな声で呟いた。それは先生には気づかれないぐらいのかすかな響きだった。


 そうだ、百合菜はミステリアスな美少女だったんだ、と思った。ところが、今やそれは少し白々しく感じられた。百合菜は、もう以前ほどミステリアスな存在ではなくなっていた。

 次は「夕闇に咲いた花みたいな、そんな春の不思議」という文だった。プリントに書いてみる。

 夕暮れ時の廊下で、百合菜が学園の秘密を語った時のことを思い出した。あの時に感じた、彼女の不思議さは本当に消えてしまったのかな、いや、それは考えすぎだ、と八重は思い止まった。第一、今の私は、百合菜のすべてを知っているわけではない、彼女は相変わらず謎めいている、と思った。


「夕闇に咲いた花みたいな、そんな春の不思議」

 八重はそう書いてから、少し恥ずかしい詩に思えてきた。これを文芸部で発表したら、なんとなく百合菜に会うのが気まずくなるだろう……。


 そう思って、隣の百合菜を見ると、百合菜もせっせとプリントの裏に何かを書いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ