36 由依の作戦
「でも、明日、犯人は何をするつもりだろう……?」
八重は、不安を感じながらもその脅迫状を見下ろし、そっと呟いた。
脅迫状の文面には「アシタショウコヲミセル」と認めてあった。それが「明日証拠を見せる」という意味であることは誰の目にも明白だった。しかし、その証拠が何なのかは分からなかった。
その汚らしい文字は、黒いボールペンで書かれているものだった。どうして犯人がこのような醜い文字を書いたのかというと、やはり自分の筆跡を誤魔化すためだろう。
その文字の列を見ているうちに、八重は犯人の心理が読めてきそうな気がした。しかし、それは実際にはなかなか見抜けなかった。分かりそうで分からない人間の心の底そのもので、影の中に鳴りを潜めたまま、一向に正体を見せないのである。
「何をするつもりか知らないけど、明日はあえて、こいつの言う通り、誰にも言わないでおこうよ……」
と、由依は何か思いついたらしく、したたかな笑みを浮かべた。
「それでどうするの?」
八重は気になって尋ねた。
「私たちで協力して、そいつが犯人だってゆうことを証明すればいいんだよ」
由依がにやにやしながら言うのを見て、八重は場違いだがなんとなく、助平そうだな、と思った。
「証拠を? どうやって……」
「明日、証拠を見せるということは何かをしでかすということだよ。たとえば、どこからか八重の様子を伺っていて突然襲ってくるとかね。それはそれで結構。その現場で反対に引っ捕まえればいいんだよ」
と言う由依の顔は自信に溢れている。
「そんなの無理だよ。相手がどこからどう襲ってくるのかも分からないのに……」
由依は好戦的になっているが、八重はそれに付いて行く元気はない。八重はさらに不満をぶつける。
「それに、紙の内容からすると、七不思議の謎解きから手を引けば私は襲われないはずなんでしょ? それなのにどうして明日、私、襲われなきゃいけないの……」
「それは確かにおかしいね。矛盾してる。でも、何か証拠を見せるということは、それだけ恐ろしいことをしでかすということじゃん。八重の真横に矢が飛んでくるとかね。殺すんじゃないにしても、自分が本気なんだってことを見せつけてくるはずだよ。何にせよ、相手の方が動くことが分かっているんだから、こっちからも手を打てば、反対に捕まえられるはずだよ?」
そう言う由依は、ある考えが浮かんでいるらしく、八重の方にぐいと擦り寄ると、
「明日、私、部活ないからさ。一日中、八重のボディーガードをしてあげるよ。必ず八重の背後数メートルを歩くからさ。犯人が現れたタイミングで、私が証拠写真を撮って、警察に通報してあげるよ……」
八重はそんな無謀なことはしたくなかったが、ボディーガードになってくれるというのは単純に嬉しい。どのみち、こんな脅迫状が届いてしまっては、とても一人で外を歩けない。
「八重は明日、放課後どうするの?」
「そういえば、文芸部のミーティングだね……」
…….しまった、詩を考えていなかった、と八重は思った。




