34 ドアの下の脅迫状
成宮りん様から挿絵を頂きました!! 前回にも同じものを掲載しています。宜しければ、一つ前に戻って、ご覧ください!!
『まあ、別に奢んなくてもいいけどさ。俺はお前と飲みたいわけよ』
と根来は、よく懐いた愛犬のようなことを言う。鬼とか虎に喩えられる屈強な男子でありながらも、こういうところには愛嬌がある。
祐介は思わず微笑んだ。
「分かりました。また何かあったらよろしくお願いします」
『おう!』
「ところで、五年前に紫雲学園で起こった事故についての資料を読みたいのですが……」
『ああ、いいぞ。資料をコピーして、事務所に送ればいいんだな』
「できれば、僕が今泊まっている民宿に送ってほしいんです」
『おう、了解だ!』
果たしてこれで良いのか、日本警察……。
*
八重は、紫雲学園に着くと、自分の寮室に荷物を置いて、百合菜と共に七不思議の聞き込みにかかった。校舎内を歩きまわって知らない生徒に話しかけるのは、内気な八重には勇気のいることだった。しかし、美少女百合菜がいるおかげで、男子生徒の反応は概ね良く、話を聞くことは案外簡単なことだと分かった。その中で、一つだけ面白い話を聞くことができた。
それは二年生の先輩の証言だった。その先輩の話によると、七不思議の一つは、夜中、美術室から白い影が出てくるというもので、簡単に言えば、シーツのお化けの怪談の類であった。その白い影は、血にまみれて、片手に鋸を持っているのだという。その化け物は生徒を見つけると、馬よりも早く、走って追いかけてくるのだという。河童とか、トランペットの話と違って大分物騒な話である。
とても恐ろしい話のようだけど、百合菜と八重はそれをどう解釈して良いものかまったく分からなかった。
午後六時も過ぎたので、二人は寮室に戻ることにした。分からないことは分からないが、それでも八重は、帰りの廊下で、確かな手応えを感じていた。
「でも、はじめて事件っぽい七不思議を聞けたね……」
と八重は百合菜に話しかけた。ところが百合菜はあまりそれをこころよく思わなかったらしく、首を横に振った。
「私の兄は、山の中で、頭部を強打して亡くなっていました。もしも、殺人事件なら凶器は鈍器のはずです。鋸とはまるで関係がありません……」
そうなのか、と八重は落胆した。おまけに百合菜が暗い表情を浮かべているので、なんと声をかけてよいか分からなかった。
八重は、百合菜と別れて、学生寮の自室に戻ると、由依の姿はまだなかった。そして八重は、散らかった部屋の様子を眺めながら、ため息をついた。どんどん部屋が散らかってゆく。
八重が、入り口から室内へ踏み込もうとすると、何かが足の裏の下で滑った。それは、紙のような感触だった。
(なんだろう……)
八重は、下を向いた。白い紙だった。そこには、下手くそな字が書かれていた。なんと読むのか分からない。八重が拾い上げると、それははっきりと読み取れた。
*
ケイコク。コレイジョウ、シウンガクエンノナナフシギニツイテシラベヨウトスルナラ、オマエタチヲコロス。イマスグニテヲヒケ。イタズラジャナイ。アシタショウコヲミセル。コノコトハダレニモシャベルナ。
*
八重は、立ち尽くしたまま、その文を何度も読み直した。はじめは意味が分からなかった。しかし、繰り返し読むにつれ、その意味が分かり、身の毛がよだち、激しい恐怖に襲われたのであった。それはまさしく八重に対する脅迫状だった。
「そんな……!」
八重は、しばらくその文面に釘付けになっていた。そのうちに、あることが頭をよぎった。これを置いていった人間は今どこにいるのだろう。誰かに見られている気がしてきた。その時、八重は、はっとして窓を見た。カーテンは開かれたままだった。それが恐ろしい事実のように感じられて、八重は慌てて窓に近づき、急いでカーテンを閉じた。
(どうしよう……このことを誰に知らせれば……)
八重はしかし、その文の最後に記された「コノコトハダレニモシャベルナ」という言葉が引っかかった。彼女は、このことを誰に喋れば良いのか分からなかった。それよりも恐怖が勝っているのだった。




