21 黒幕
「でも、その話、誰から聞いたの?」
と八重は百合菜に尋ねた。
「廊下にいた先輩から聞いたんです。やっぱり、七不思議については先輩方の方が詳しいようで……」
となると廊下で聞き込みをしたということか、案外、神経が太いな、と引っ込み思案な八重は思った。
それにしても夜中に河童がボートを漕いでいるというのは、なんとも珍妙な七不思議だ。一般的には、音楽室からピアノの音色が聴こえてくるとか、女子トイレに白い幽霊が出るとかいうようなものが多いのではないだろうか。どうしてこんな風変わりな七不思議が出来たのだろう。
「そういえば、夕紀さん……」
と八重は百合菜に話しかけた。
「昨日、この学園には恐ろしい秘密があるって言ってたけど、それって、どういう意味?」
百合菜は静かに頷いたが、可憐な眉をそっとひそめて、あまり喋りたくなさそうな様子でもあった。
「この学園には恐ろしい秘密があると思っています。私は今も、その秘密を探っています。ただ、すぐには話せません。今は時期がくるのを待っています。また、そのことは人に絶対に喋らないようにしてください」
「七不思議と関係が……」
「そうかもしれません。根拠はないけれど。でも、それも今は喋れません」
「あの……何かあるなら、私、手伝うよ?」
「いえ、大丈夫です」
と百合菜はすぐさま断った。
八重は昨日、思わせぶりなことを言われてせっかく興味を持ったというのに、今になってそれを秘密にされるのはすっきりしなくて心地が悪かった。それを感じ取ったのか、百合菜は申し訳なさそうな顔をした。
「お気持ちは、ありがとうございます。でも、危険なことなので、今は一人にさせてください」
「危険なことなら、なおさら、一人にできないよ」
そこまで関わって欲しくないなら、なんで昨日喋ったんだ、と八重は内心突っ込みたかった。ところが百合菜は湖を見つめて答えなかった。
「先生には……相談した?」
と八重は、別の方向から聞き出すことにした。
「いえ、先生には喋っていません。というより、このことは学園の関係者に喋ってはいけません。この秘密の恐ろしいところは、学園内のどこに黒幕がいるのか分からないところなんです」
「黒幕が……?」
喋れないと言いながら、少しずつ手がかりがこぼれ落ちるところが、百合菜の天然なところだった。
……黒幕とはどういう意味だろう。
「でも、だとしたら、どうして私には喋ったの?」
「和泉さんは、まだこの学園に入学して一月しか経っていないから、学園の秘密とは無縁の方だと思いまして……。それに、食堂で話をしている中で、信頼のできる人だと思いました。私も、ずっと一人でこの秘密に挑もうとは思っていません。だから、和泉さんには話したんですけど、何にせよ、危険なことなので、まだ関わらない方が良いです」
百合菜は秘密にしたいのか、協力してほしいのか、よく分からない口ぶりだった。機が熟していない、そういうことなのかな、と八重は曖昧に解釈した。
「なんか分からないけど、私、今すぐにでも夕紀さんに協力するよ。危険なんて、言われると一人にさせられないし、それに、学園の七不思議と関係があるんでしょ? それなら私も興味あるからさ……」
と焦ったくなって、八重は半ば強引に迫った。しばらく百合菜は困った顔をしていたが、ひとりの心細さもあったのか、この積極的な言葉を受けてふっと笑った。
「それなら、学園の七不思議だけ、一緒に調べましょう。私、実は一人で調べることに限界を感じていたんです……」
結局、協力してほしかったのが本音だったのか、百合菜の笑顔はほがらかだった。




