15 柏崎先輩と併走
成宮りん様から柏崎先輩の挿絵を頂きました! 最新話をお読みの方は、お手数ですが、一話前に掲載されている挿絵をご確認頂ければと思います。(^^)
「ちょっと待ってくれな。ノートを取りに来たんだ」
柏崎先輩はそう言うとポケットから鍵を取り出し、文芸部の部室のドアの前に立って、すぐさま解錠しドアを開いた。
部室内は一寸先も闇である。
柏崎先輩が壁のあたりを触ると、そこにスイッチがあったらしく、白熱灯の赤らんだ明かりがぱっと灯った。四角い部屋の中に埃をかぶった本棚とテーブルと椅子が並び、その先に部長が座るのであろう、パソコン付きのデスクがあった。赤らんだ灯りの下だからだろうか、そこはまるで……。
(ジャズ喫茶みたいだ……)
と一度も訪れたことがないくせに八重はそう思った。
「ここで待っててくれ」
と柏崎先輩は呟いた。そして八重は何故か扇子を手渡された。暑い日だから気を利かせたのか、それとも後輩としてこき使っているのかは定かでなかった。
柏崎先輩が室内に入って行くときに、ふわりと和風な良い香りがした。香木でも焚きつけたような感じがする甘い香りなのだった。
(ああ……この芳香は、千年の昔、平安の京の香り……時を越えて今も尚……)
と一瞬、変な文が頭をよぎってしまって、八重は途端に赤面した。
しばらくすると、柏崎先輩が「文芸部」と書かれたノートを扇ぎながら外に出てきた。
「急ごう。時間ばかりは待ってくれない。君、走れるか……?」
と柏崎先輩が涼しげな顔で語るので、八重は正直走りたくはなかったがとりあえず頷いた。
「ゆっくりなら……」
「まあ、そんなに急がなくてもいい」
(どっちだよ……)
八重は心の中で突っ込んだ。
「場所は、図書室横の会議室だ。文芸部のミーティングは大体そこで行われるから、今からでも覚えておくと良い」
「そこなら、第一回のミーティングで……」
「そうか。覚えているか。じゃあ、急ごう」
八重は、柏崎先輩が勝手に走って行ってしまうものかと思っていたが、そんなことはなかった。先輩は階段を降りると、図書室のある校舎まで、八重に合わせて比較的のんびりと軽やかに走り出した。
途中、体育館があって、体操着を着てタオルが首に垂らした由依が扉の前に立っていた。そして併走する八重と柏崎先輩を見つけるや否や、さも面白そうに口を開けて、それはそれは興味本位な目つきで見つめているのだった。
(なんか、これ、ものすごく恥ずかしいなぁ……)
八重は今晩、由依に何を言われるのだろう、と心配でたまらなくなった。
とかなんとか考えているうちに、図書室がある校舎にたどり着き、階段を登るともう目の前に会議室の引き戸があるのだった。
柏崎先輩は腕時計を見て静かに頷いた。それから振り返って、
「大丈夫?」
息切れをしている八重を気遣って、柏崎先輩はまたしてもあの扇子で扇いでくれた。
八重は、スピードを合わせてくれたにしても走らされたことをわずかに恨んでいたが、悪気のなさそうな柏崎先輩の心配そうな微笑みを見て、
「大丈夫です!」
と少し高めの声で答えてしまい、また赤面した。




