13 八重の詩
八重は早朝に目覚めた。その日は土曜日だった。授業は半日しかなく、午後は主に部活動の時間となっていた。
(もう、朝か……)
八重が眠たげに起き上がると、由依の姿はベッドになかった。バレーボール部の朝練に参加しているからだろう。
八重は、たった一人の部屋に目覚めたことがなんとなく寂しく感じられて、これもホームシックなのかな、と妙に恥ずかしく思った。というのは八重は、自宅では姉と一つの部屋を使っていたのだから。
裸足のまま八重が、ふらついた足取りで窓に近付き外を見ると、朝の霞んだ空の下、なだらかな山並みと清らかな湖に赤らんだ日が射していて、それ以外はただ無音がはびこっている景色があった。
(昨日の百合菜の言葉は、なんだったんだろ……)
八重は昨日、夕暮れの廊下で夕紀百合菜に告げれた不思議な言葉を思い返した。
「この学園に恐ろしい秘密が……」
八重はその秘密が何なのか知らない。夕紀さんはおかしなことを言ったもんだ、と思った。
この学園にそんな恐ろしい秘密などというものがあるのかな、あったとしてどうしてそれをあの夕紀百合菜という転校生が知っているのだろう、もしかしたら、あの子はどうしようもない不思議ちゃんなんじゃないかしら、と八重は疑いながら、由依の机の上を見た。
由依の机の上には反省文があった。由依は昨日、宿題をしなかったので、強面の先生に職員室に送還され大目玉を食らった。そして、宿題をすることと、反省文を三枚ほど突きつけられた。そして今、由依の机の上には、相変わらず手がつけられていない問題集と白紙の反省文が三枚が散らばっているのだった。
由依はバレーボール一筋なので、他のことには手がまわらないらしい。
八重は午前中の授業が終わったら、文芸部のミーティングに参加することになっている。昨日の夜、そんな連絡が八重の携帯電話に入っていた。
八重は自分の机の前に立った。そして机の上に一冊のノートがあって、そこに昨日書いた詩があるのを見つけた。
それはこんな詩だった。
*
転校生はミステリアスな美少女
夕闇に咲いた花みたいな、そんな春の不思議
ルームメイトは頼もしげな自由人
私が止めなくてはどこまでも飛んで行ってしまう鳥みたい
だとしたら、残された私って何なのだろう
自分だけよくわからない
わからない存在
立ち位置、不明
わからないまま私は眠ります
*
八重はそのノートのページを破いて、ゴミ箱に投げた。綺麗に入ったのを見て、私もバレーボールできるかな、と思った。




