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リンちゃんの異世界?日記  作者: 焼きプリン
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地底湖

 リンが手首の痛みに目を覚ますと、辺りは真っ暗で、滝が立てる水音だけが聞こえた。


 滝がある辺りは少しだけ光が射し込んでいるものの、辺りを照らすほどのものではなかった。


 リンは普段ほぼ使うことがないクレボヤンス(透視・遠隔視)と、空間認識を使って周囲の状況を確認した。


 どうやらリン達はかなり川を流されてきたようで、そこは地底湖になっているようだった。


 痛む手の方を見ると、気を失ったクッコロが強く握りしめており、青紫に変色していた。


「うわぁ、こんな色になるんだ。初めて見たよ…。これ手首折れてるんだろうなぁ。もう指は感覚もないけど、大丈夫かなぁ」


 地底湖の岸部に流れ着いたものの、半身を冷たい水に浸かったままで、体温と共にかなりの体力を奪われていた。体の小さなクッコロは、さらに体温が落ちていた。


 リンは何とか水の中から自らとクッコロを引き上げると、なにか燃やせるものでもないかと、周りを見渡した。


 流木がいくらか落ちてはいたが、水に浸かっていて燃えそうもなかった。


 地底湖は端が分からないほど広大であったが、その反面陸地は僅かでカプセルハウスを出せる場所はなかった。


 闇雲に動いて体力を消費するより、今は体を温めることが先決だと思われた。


「仕方ない、こういう時はアレだよね。肌と肌で温め合うっていう、伝説のヤツ。往年のラブコメ漫画の王道」


 リンはクッコロのドレスを脱がそうと、震える手を伸ばした。


「はい、アウトー! 青少年保護条例違反で現行犯逮捕します!」


 突然の声とともに、婦人警官オラクルが現れた。


「え、え、ええっ!!

 いや、こ、これは、何と言うか、その…、そう! 緊急避難!

 救急救命処置なので、仕方ないと思います! 無罪を主張します!」


「えー? ニヤニヤしてなかった?」


「く、暗くて見えてないでしょ!」


「あら、私もリンと同じ能力は使えるから、ぼんやり見えるわよ」


「ぼんやりだから、気のせいです!」


「ふーん、じゃあ、何故温めるのにまず服を脱がすのかな? 石油ストーブでも取り寄せれば良かったんじゃないの? 脱がすにしても、バスローブとかバスタオルとか用意するのが先だったんじゃないの?」


 わざわざ取り寄せたのか、いつも掛けていない眼鏡をクイッと上げながらオラクルは詰問した。


「わーん! こんな状態でそんなに冷静な判断できっこないよー!」


「うーん、まあ、保留! 今回は不起訴処分とします! クッコロちゃんが風邪引いちゃうからね」


「私のことも心配してよー!」


「あらあら、リンは私だから、心配しなくても分かってるもの。左前腕が骨折してるわ。橈骨と尺骨両方ね」


「もっといたわってよー!」


「さあ、リン! とっとと仙台豆食べて、お取り寄せよ! 急いで!」


 リンの口に仙台豆が放り込まれ、骨折は瞬時に回復したが、さらに体力が減ってリンは倒れた。


「あっ、先に体力戻すべきだったかしら…、ごめん、リン」


「ぐぅ、後は任せたよ…」


「はいはい、了解。しばらく寝てなさい」


 オラクルは優しくリンの頭を撫でた。リンの意識は闇へと落ちていった。




 リンが目を覚ますと、辺りをランタンが照らし、石油ストーブが赤い光を放っていた。


 石油ストーブの前では、クッコロがアルミのエマージェンシートにくるまり、湯気の立つマグカップを傾けていた。


「良かった。クッコロちゃんも気付いたんだね」


「温まって大分楽になったでしょう? リンも飲みなさい」


 横からオラクルがマグカップを差し出した。受け取って口を付けると、温かなスープの甘味が、体の中に染み込んでいくようだった。


「リン! 大丈夫なのか?」


「大丈夫。オラクルちゃんがいなかったら、やばかったけどね。油断したなぁ。危うくワイバーンに殺されてるところだったね」


「うっ、ご、ごめんなのじゃ。妾が崖から落ちたから…」


「いいよいいよ、気にしないで。仕方ないよ。クッコロちゃんの言う通り自分で飛んで行ってれば特に問題も起きなかっただろうし、私こそごめんね」


「ふふふっ、じゃあ、痛み分けじゃ!」


「あらあら、仲が良いわね。まあ、あんな事がなければ、この地底湖なんて見ることもできなかったんだから、これも一興よ」


 オラクルはそう言ったが、ランタンの灯りに照らされても端も見えない地底湖は、幻想的というよりも根源的な恐れを抱かせた。


「いや、怖いよ、ここ。大雨とかで増水したらここも沈むよ? 気楽に寝ることもできないよ」


「そうね、体力が回復したら早めに脱出しましょう」


「で、出口はどっちじゃ?」


「うーん、それがねえ、入ってきたところは水の中を逆行しないと行けないから、現実的じゃないの。飛んで行けるスペースも無かったし、テレポートで抜けるにも距離が厳しいわ」


 二人が気を失っている間に、オラクルは脱出経路を探ってくれていたようだった。


「上もテレポートできる範囲は岩盤みたいだよ」


「まず地底湖の端を調べてみるのじゃ」


「そうだね。どうしようもなくなったら、岩盤をぶち抜くしかないけど、生き埋めになりそうだよね」


「博打を打つには早いわよ。とりあえず壁に沿って飛んで行きましょう」


「分かったのじゃ」


 ストーブとスープで体温が戻り、体力もある程度は回復していた。そろそろ移動しようかと思ったところで濡れた服が気になった。


「服が乾いたら…、あれ乾いてるね」


「いつものあれよ。水分だけ収納したの。血抜きと一緒よ」


「便利だね、超能力って。その代わり、肌を温め合う伝説が再現されないねー」


「いざとなったら、私がパイロキネシスで温めてあげるわよ」


「火達磨になっちゃうよ! ところで、オラクルちゃんはよく私達を見失わなかったね」


「私とリンは一心同体だからね。どこにいても分かるわよ。川が山の下に入っていったときは焦ったけどね。水を弾くようにバリアを張って川に飛び込んだのよ」


「そうなんだ。助けてくれてありがとう」


「いいって。私とリンは同じ存在なんだから、自分で助かっただけよ」


「そう? でも、ありがとうね」


 オラクルは微笑みながら、話は終わりとばかりに片手を挙げた。


「さっ、そろそろ行きましょう。鉄砲水とかも怖いしね」


「あっちの方に、変わった気配があるのじゃ」


「魔物?」


「魔物ではないと思うのじゃ。行ってみればわかるのじゃ」


 クッコロが指差す方向は地底湖の中心方向で、暗闇の中には何も見えなかった。


 当初は壁際から探索する予定だったが、どうにもクッコロが気になると言うので、まずそちらに向かうことにした。


 ストーブやエマージェンシートを片付けると、ランタンを持って先の見えない暗闇へと飛び出すのだった。

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