ディスカバリー ワイバーン
「今日のサンドイッチは、ミルフィーユサンドにしてみました」
「ミルフィーユ?」
「そう、これ卵ミルフィーユサンド。ゆで卵とマヨネーズを和えて、普通よりかなり薄いパンと交互に挟んで層状にしたものを、さらにフライパンで各面を焼いています。
どこかのデパ地下で見たヤツを真似してみました」
普通のパン三枚具二層のサンドイッチ程度の厚みに、五枚のパンと四層の卵が入ったホットサンドであった。
「美味しいのじゃ! 焼くことでパンが香ばしく、歯触りも良くなっているのじゃ。この厚みがボリュームがあっていいのじゃ」
「あらあら、本当ね。単純に厚いだけより、パンと交互になることで、食感に変化が出ていいわ」
「卵サンドって美味しいよね。ゆで卵作るのが面倒なんだけど、どうせ潰すから、別に目玉焼きでもいいし、レンジでポーチドエッグにしても手早くできるよ。目玉焼きだとちょっと香ばしい卵サンドになるね。
こっちのカツサンドは、ミルフィーユカツなんだ。薄切りの豚肉を重ねてカツにしてるの。線維が切られているから、すごく軟らかいよ」
「ふー、ふんわりサクサクなのじゃー」
「美味しいわね。揚げたてを収納したから、まだアツアツでジューシーだわ。サンドイッチじゃなくて、バーガーでも美味しそうよね」
「そうだね。バーガーも確かにいいね! レタスを多めに挟んで食べたいね」
「こっちのは、もっと美味しいのじゃー!」
「あっ、そっちはミルフィーユカツの肉の間にチーズと大葉を挟んでみたの。これも美味しいね」
「私はノーマルのミルフィーユカツサンドの方が好きかな。どっちも美味しいけどね」
お腹が膨れた一行は、食後の一時をゆっくり紅茶を嗜みながら過ごした。
「今日の夜なんだけど、カプセルハウスでもいいんだけど、せっかくだし街で宿に泊まらない? 現金も残ってるし、珍しい食べ物もあるかも知れないし」
「それで、いいのじゃ」
「そうね、行ってみましょう。どのくらいの距離かしら」
リンはマリアンヌ作の地図を広げた。
「うーん、まだ結構あるね。まだ街まで半分来てないよ。間に描いてない村くらいあるかも知れないけど」
「そう、じゃあそろそろ行きましょう。暗くなる前に着きたいわ。暗闇でリンの運転するホバーカーには乗りたくないわ」
オラクルが笑ってそう言うと、リンは苦笑して同意した。
「酷いなぁ。でも私も夜は運転したくないな。暗くなったらカプセルハウスにしましょう。街が見えるかちょっと空に上がって見てくるね」
リンは片付けを済ませると、体を浮かせ森の全体が見下ろせる位置まで上昇した。
「最初はあの木の高さくらいしか飛べなかったのに、大分飛べるようになってきたなぁ」
青龍戦の影響もあるのか、予想よりも高いところまで浮かぶことができていた。
上からでは森の中の道は所々しか見えなかったが、地図と方向を確認して街を探した。
森を抜け、川を越えた辺りに村落が見えたが、地図からすると目的の街はもっと遠く、前方の視界を遮る山の向こうのようだった。
山と言っても小さな物で、わざわざ飛んで行くほどでもない高さで、木々も少なくホバーカーでも問題なさそうな山だった。
確認を終えて二人の下に戻ると、青年が、荷馬車の準備をしていた。リンは元々ホバーカーを隠す必要性を感じていなかったが、青年に騒がれてクッコロが暴走しても面倒なので、こっそりテレポートで少し離れてからホバーカーを出した。
安定してきたリンの操縦で、順調に森を抜け上空から見た村を横目に通り過ぎた。
「街が見えなかったから、あんまり寄り道してると、夜までに着かないかも知れないから、村は素通りするけど、もし寄りたかったら言ってね」
「大丈夫じゃ。まだお腹いっぱいじゃ」
「あらあら、食べに寄るわけじゃないわよ」
やがて道の傾斜が上がり、山へと入って行った。山の斜面でヤギが草を食んでいるのが見えた。
「見て、ヤギだよ。ヤギって何で高いところが好きなんだろうね。しかし、平和だなぁ」
「そうでもないのじゃ。あれを見るのじゃ」
クッコロが指す方へ目をやると、ワイバーンなのか、翼龍がヤギを攫わっていくところだった。
「おおっ、弱肉強食だね! ジオグラフィックとかディスカバリーチャンネルみたい! 人は襲われないのかな?」
「食べやすくて美味いヤギがいるのに、わざわざ人間など襲わんのじゃ」
「そんなもんかなー、ギャーッ!」
横合いからワイバーンがホバーカーを襲った。油断していたことと、ホバーカーの操縦に意識を割きすぎていたこともあり、その襲撃にリンは気付かなかった。
ホバーカーは鉤爪で引っくり返され、ゴロゴロ転がって岩に当たって止まった。
しっかりシートベルトをしていたことで、逆にワイバーンの攻撃から逃げるのが遅れてしまった。
斜めに引っくり返った状態から、何とかシートベルトを外すと、リンは頭から地に落ちた。
「痛いっ!」
「あらあら、うふふっ。テレポートで脱出すれば良かったのに」
「もう、先に言ってよ!」
テレポートでクッコロと一緒に脱出したオラクルが、ニヤニヤしながら撮影していた。
「あの程度を避けられぬとは不覚じゃ。やはり自分で飛んだ方が安全なのじゃ」
すぐそばで大きな音がして目をやると、ワイバーンがホバーカーをつついていた。
どうやら、人間を襲ったというより、見慣れぬホバーカーに興味を示しただけのようで、リン達には見向きもしていなかった。
「あーあ、壊れてるよね、きっと」
「そうねぇ、煙りが出てるしね」
「邪魔なのじゃ!」
リンが気を落としている間に、クッコロはワイバーンの頭を吹き飛ばした。
「仕組みも分からないから修理もしようがないね。せっかく操縦にも慣れてきたのになぁ」
「仕方ないわよ。のんびり行きましょう」
勿体ないのでワイバーンを収納し、ホバーカーを調べてみたが、火花と煙を出しており、動かすのは危険そうだった。
あまり触るのも怖かったので、そのまま収納してしまうことにした。
「これ、収納の中で爆発したらどうなるの? 放置するのも不味いし」
「さあ? 大丈夫じゃない? たぶん」
そうこうしていると、上空にワイバーンが集まりだし、ギャーギャーと鳴き声を上げてながら旋回していた。
「あらあら、集まって来ちゃったわね。威嚇してるみたいよ」
「うん、早く移動しよう」
「では、行くのじゃ!」
同じ黒いカラスが上空に集まっていても気持ちが悪いのに、さらに大きなワイバーンが群れていると不気味で、クッコロも居心地が悪かったのだろう。すぐさまリンの手を掴んで走り始めた。
さすがに飛んでワイバーンの群れに突っ込むことはなかったが、早く去りたいクッコロの本気ダッシュに、リンの腕は千切れそう。
「あーれー! おーたーすーけー!」
風にたなびく旗のように、リンの体はバタバタと宙を舞った。クッコロがジャンプしたり曲がる度に岩に、地面にリンの体は叩きつけられた。
「げふっ! し、死ぬ! 離してー! ごはっ!」
しかし、クッコロの耳には届かない。
「いいよー、リン! もっとリアクション頂戴!」
オラクルは楽しそうに録画中。
すると、ワイバーンがクッコロ達に向かって岩を落としてきた。
「ふん、そんなもの当たらんのじゃ!」
クッコロは落てくる岩を避けず、その下を駆け抜けた。確かにクッコロには当たらなかったが、リンにはしっかり当たった。
「ごほっ! 痛いよー!」
次の岩は下をくぐるには遅かった。
「そんな岩など、こうじゃ! あっ!」
クッコロはいつものように右腕を振り抜いたが、いつもと違って右手にはリンの手が握られていたままだった。
リンの体が棍棒のように振り抜かれ、岩を叩き割った。
「ぎゃん!」
「ご、ごめんなのじゃ」
そうこう言っている間にも岩や倒木などが落とされ、クッコロはリンを掴んだまま走り続けた。
視界を遮る落下物に気を取られていたため、クッコロは道を逸れていることに気が付かなかった。
ついに落下物が尽きたとき、二人の前方に地面はなかった。
「ギャーッ! おーちーるー!」
「あわわ、道が消えたのじゃー!」
二人は慌てて空を飛ぶこともできず、崖下の渓流へと落ちていった。




