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8.空気の重さ、2回目です

 今、ルーシス様はなんとおっしゃいました? ナニモシナクテイイ?


「いや、だから……僕の婚約者でいてくれるだけでいいんだ」


 ルーシス様は顔を赤らめ、なぜか急に目を合わせなくなる。


「??????」


 ますます理解が出来ない。


 何もしないとなると、私が婚約する理由がなくなってしまうのですが……


「こほんっ、もちろん、公爵夫人としてのマナーは必要だから、家庭教師の手配は済ましてある。ここで生活するための準備もあるだろうから、特に口の固い専属の侍女をつけている。体調が良ければだが、可能なら早めに取りかかった方がいい。僕らの関係が表に出るのはすぐだろうから……僕も少しやるべきことがあって書斎に行くが、何かあれば、呼んでくれ」


 一瞬、頬に手を差し出される。軽く触れ、わずかな時間だが今までで1番優しい微笑みを見た。


 そのまま固まっている間に、ルーシス様と入れ替わるように侍女たちが入ってきた。



「………………」


 さすが公爵家。人を惑わすのはお手のものですのね。集中しなくては。


 そこからは目の回る忙しさだった。体調の確認のための診察、身を清めるお手伝いをと、初めて他人に身体を洗われてしまった。服の採寸にと、サイズをあちこち測られ、明日からのスケジュールを説明される。ほとんどが公爵夫人として必要な教養ばかりで、今更ながらに、自分がいかに無知だったか思い知らされる。


「うっ、世のレディがこんなにも覚えることがあるなんて……」


 お母様から文字や刺繍を教えてもらえていたことだけが幸いでしたわ。あとはほとんど見よう見まねのものばかりで、慣れるまでは時間がかかりそうですわ。


 


 気づけばすっかり夜になり、お父様と食べた朝食から何も食べていない。正確には、お昼に手をつけられなかったのだ。


 侍女たちが四六時中付き添っている為、作法もままならない食事をするのに気が引ける。


 話しかけても全く距離が縮まる気がしませんわ。


 グゥッ。


 うっ、空腹には慣れているつもりでしたが、人前でお腹の音がなるなんて。昨夜は1人になりたいわがままから騎士様のお命に関わる事態になっただけに、言いにくいですが……


「あの、1人にしてもらうわけには……」


「恐縮でございますが、ルーシス様より決して目を離さないようにと仰せつかっております」


 手を回されていらっしゃる。


「……なら何か軽食をお願いできるかしら?」


 軽食なら、一口サイズのものばかりのはず。作法もそんなに必要としないものが出るはずですもの。それでなんとか空腹をまぎらわせて、夕食も回避すれば……


「夕食はルーシス様が是非ご一緒にとのことでございますが、いかがいたしましょうか」


「あ、では……大丈夫ですわ」


 なぜですのっ!? なぜかルーシス様に考えが先に読まれているような気が……いえ、まさかですわね。それにしても、ルーシス様と食事となると、余計に食べづらいですわ。みっともないと呆れられるでしょうか。それとも、ここまで教養がないなんてと、この話を考え直されるかもしれませんわ。ルーシス様はアノ力は必要ないとおっしゃってましたし。


 もしや、私試させれているのでしょうか。








「身体の具合はどうかな?」


「問題ありませんわ」


「そう……その割にはほとんど食べてないって聞いてるけど?」


「……人に見られながら食べることに慣れておりませんので」


 これは事実だ。


 下手に嘘をつくよりも、事実を言った方が疑われませんわよね?


「人に見られる?」


「はい。ですから、侍女の皆様よくして下さっていますが……ただ見られるというのは今までありませんでしたので……」


 まさか、使用人が1人しかいないなんて、ルーシア様には想像出来ませんものね。


「……使用人の目が気になるということかな?」


「えっ、えぇ」


 このリアクション、まさか、分かっていただけたのでしょうか。

  

「それは、不敬を働かれた?」


「はいっ??」


 この空気の重さは知っている。


 あの時の、屈強な騎士様達が恐れるほど冷たい声色ですわ。


 侍女達の手が震え、真っ青になっていることに気づく。


「誤解ですわ。侍女の皆さんにはとても……とても良くして頂いてましたわ。でも、今まで自分のことは1人でしていましたので、慣れていないだけですわ」


「……君が食事を食べられない原因はあの者達のせいなのだろう? 相応の処分を……」


 ちっがーーーーーーう!! この方は、生まれてこのかた、使用人に囲まれてきたのが当たり前すぎて感覚がおかしくなっているんですわ。


 静かに席を立つ。


「ミラ?」


「私のことを色々と調べられているのならご存知でしょう。教養に時間とお金をかけるよりも、その日の食べ物も、飲み物ですら自身で確保しなければならない環境でしたから」


「…………」


「私が食事をためらったのは、彼女たちのせいではなく、己の無作法さを恥じてるからです」


 まずいですわ。恥ずかしさで涙が……


「……もっと、使用人の皆様を大切にすべきですわ……すみません。私、先に失礼致しますわ」


 やってしまいましたわ。2日続けて次期公爵様になんてことを。


 それでも、ルーシス様が使用人を人として見ていない感覚には慣れることが出来ない。


 固まるルーシス様を残し、慌てて追いかける騎士様達に部屋まで送られ、1人ベッドに崩れ落ちた。








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