7.婚約者、つまり夫婦かな
「もっと言うなら、その能力でヴァロアナ家に害のある人間を排除するのが務めだ」
そこまで言うと、あとは任したと言わんばかりにルーシスに視線を向け、すれ違い様に何かささやく。表情1つ変えない様子だったが、公爵様がその場を去ると同時に一瞬、冷たい眼をする。
「……あとは僕から説明しましょう」
この話は使用人達にも極秘事項なのか、元から人払いがされ、公爵様が部屋を出ていったい今、2人きりになる。
昨夜と同じ人とは思えませんわ……けど、騎士様達に話す時はこうでしたわね。
「そんなに怖がらなくて大丈夫、ですよ?」
「えっ?」
「ッフ、ごめんごめん。……公爵様がいる前では取り繕えないなんて、昨日から君には失態ばかり見せてるね」
言葉遣いとともに、表情もほぐれるように柔らかくなったかと思えば、話しかけられながらどんどん距離が近くなる。
「ミラ嬢、いや、ミラ」
「っ!?」
「公爵様があの話をした以上、もう後戻りは出来ない。もう僕らは婚約者、いや既に夫婦同然といってもいい……だから、もう少し気軽に接してくれるかな?」
先ほどまでの尖った雰囲気はどこへいったのか。恐ろしいほどまぶしい笑顔に、直視出来なくなる。
「ふっ、夫婦と言われましても……あの……」
「ルーシス」
「はい?」
「まずは近い未来の夫の呼び名から練習としようか」
「はっ、はい!?」
「気軽に呼んでほしい。さぁ」
楽しんでおられるように見えますわ!! なぜそこからですのっ!? いえ、名前の紹介は確かに大事ですが。それより、公爵様が言っていた害意のある者の排除だとか、そういう説明の流れだったのでは!?
「どうしたの? ミラ」
ひぃぃぃぃぃっ。
名前を耳元で呼ばれ、一気に頭に血が上るのが分かる。これは、ダメですわ。クラクラしてきた気が……
そこから目の前が真っ暗になり、慌てたようなルーシス様の声が聞こえた気がしたまま、いつのまにか気を失ってしまった。
「こっここは……」
目が覚めると、昨日泊まった部屋とは違う部屋に寝かされていることに気づく。
「あぁ、良かった。気がついた?」
「っ!?」
まさか、ルーシス様がずっと付き添われて!? 聞きたくなる衝動を抑え、なんとか落ち着いて話をする。
「あの、この部屋は?」
「客間はもういいだろうと思ってね。これから先、何かと一緒に過ごす方がいい。あっ、大丈夫。さすがに部屋はまだ別々だから。同じ塔の近い部屋ってとこかな。すぐにかけつけられるだろう?」
まだ、という言葉が気になるところだが、何かあればと言うのは、あまりいいことではないように思える。
ここは、冷静にならなければいけませんわ。私が婚約者として求められているのは、アレが視えるからで、公爵家の恥にならないようお役に立たなければなりませんわ。そうでなければ、弟のヨコラやみんなに以前のような、いえ、今までよりも苦しい生活を強いることになりかねますわ。
「……ルーシス様、先ほどは大変失礼致しました。今後は、お手を煩わせるようなことはないよう気をつけますわ」
「…………」
「あの、ルーシス様?」
反応がありませんわ。まさか、次から気をつけるなんて甘いと呆れられたとか? そういえば、騎士様達にも2度目の機会なんて与える選択肢はないお叱りようでしたわ。
血の気がひき、手の感覚すらなくなるようだった。
「…………もう一度」
「えっ、あ……やはりもう一度チャンスをなんて甘い考えで……」
「もう一度、名前を呼んでくれないか?」
「はい?」
見れば顔を赤らめ、恥ずかしそうに口元を手で覆うようにこちらを見ている。
「……ルーシス、様?」
「〜〜〜〜っ!!」
言われたとおり、名前を呼ぶと今度は勢いよく顔を後ろに向け、どうやら深呼吸をしているようだった。
「どうされ……」
「いや、なんでもない。想像以上にいいものだと思っただけだ」
「????」
他の従者の方達もルーシス様と呼んでいらっしゃっているのに? まぁ……私もルーシス様から名前を呼ばれるのは、なんだか……いえ、浮かれてはいけませんわ。私の働きで実家の将来がかかってるんですから!!
「ルーシス様!!」
「ん?」
こちらの気合いとは異なり、なぜか髪をなでられる。
平常心っ、ですわ!!
「っ、この屋敷にきてから、私にはいわゆる人ざるものを見ていません。ここまで大きなお屋敷で、これだけ多くの方が働いているというのに、奇妙なくらいですわ。何か理由があるのではないですか?」
「うーーん……」
やはり、切り込みすぎたでしょうか。でも、お役に立つ必要性がある以上、1番気になっていた問題を無視し続けるわけにもいきませんし……
「1番高い塔に、浄化石が置いてあるからかな」
「浄化石、ですか?」
「まぁ、地位も名誉も力もあるとなると、その分人に恨まれるからね。それもあって、ヴァルアナ家は代々ミラのように……特別な力を持つ女性を伴りょとして選んできたんだよ。でも、そんなに毎回見つかるわけでもないのが現実だ。それで対応策として使うようになったらしいけど。あくまでもこの屋敷内だけ、らしいいからね」
「そんなものが……」
「効果があるとは僕も思ってなかったけど、ミラがそう感じていたなら役に立っているみたいだね」
「…………」
そんなに便利なものがあるのなら、私がお役に立てることってあるのでしょうか。
「ヴァロアナ家が黒を好むのは、目眩しの縁起をかついでいるからとも言われているからと教わった。まぁそのせいで悪目立ちしていると個人的には思うけどね」
「そうですか……」
「……色々話したけど」
「?」
「ミラは何もしなくてもいい」
「はい?」




