46.本当の気持ち
「お待ちくださいっ」
突然の突風により、パーティ会場の一部が荒れたこともあり、会場全体がお開きモードとなる。
当然、ミラ達ももうここに用はない。
だが、マリアは外の突風により、慌てて待機していた護衛騎士達の迎えを遮るように声を絞り出す。
「…………今夜はこれで失礼しますわ。ロアナ家のもてなしには感謝します」
もてなし、というには随分な集団による脅迫を受けたが、この場を利用させてもらった以上、御礼は大事だ。
「〜〜〜〜っ」
ルーシス様を見つめる目とは異なり、代わりに挨拶をしたミラを一瞬するどく睨む。だが、慌ててすぐにいつもの天使のような微笑みに戻り、今度は目を潤ませる。
「ルーシス様……どうか、私の気持ちを無視しないで下さいませ。大聖堂がこんなにも申請許可に時間がかかるなど、不吉の兆候としか思えませんわ……ヴァロアナ家が他の貴族との差を公平にするために、名もない家柄を選ぶ優しさは分かりますが、何もご自分の足かせになる方をわざわざ選ぶ必要なんてっ……うっ」
迫真の演技、頬を赤く染め、こぼれそうな涙をため見つめるマリアは同性でも思わず抱きしめたくなる。
本性を知らなければ、ですが。
「……突風の被害、大事にはなってなさそうですが、庭園の植物へ害がないかヴァロアナ家からも庭師を応援に派遣しましょう」
「はい? そんなこと気にされなくても……それよりも私はっ」
「ロアナ家の庭園には育成の難しい珍しい花がそれは見事に植えられてますね。庭師が丁寧な作業をしているのだろうと、ここに着いてすぐ、妻は賞賛しておりました」
「……妻だなんて。まだ正式には」
妻という言葉に苛立ったのか、若干口元をひきつかせるマリアの言葉を遮り、話を続ける。
「別日に場所を改めた方がいいかと妻は迷っているようでしたが、今日のような機会を逃すわけにはいきませんから」
さも愛しそうにミラを見つめ、マリアとはろくに視線を合わせようとしない。
「あの、先ほどから何を言ってるのですか? 私は今日、お2人を歓迎しようと、この想いを秘めておこうと。ですが、私が紹介した友人達とは格が違うからと無下にする彼女に……出過ぎた真似ですが、ヴァロアナ家の未来を……私はこの国の未来を思って!!」
「なので、僕のような非情な男にはもったいないほどの妻なんですよ」
「はい?」
涙をこぼし迫真の訴えをするマリアの言い分を全て無視した返事に、何が起こったか分からず固まる。
「まったく、パーティへの参加を迷い出した時は僕も正直同感でしたよ? だって、こんなにも美しく可憐に着飾った妻を他人に1秒でも見せるなど、正気でいられるわけないでしょう? でも、今後のことを考えればこそ、しぶしぶ足を運んだというか」
「????」
「まぁつまり」
「っ!!」
混乱としたままのマリアの目の前で、隣に立つミラをきゅっと引っ張り抱きかかえる。
「僕は彼女に夢中だと。僕の妻に何かあればヴァロアナ家全ての力をもって対処すると、本日お会いした方々には重々伝えてるので」
「なっ!?」
マリアは招待客を見渡す。全員、それなりに各分野の精通者であることは嘘ではないだろうが、所詮は小娘の機嫌伺いに駆り出された者に過ぎない。マリアの、ロアナ家の素晴らしさをルーシス様に吹き込むよう言われていたのだろうが、誰一人まともに視線を合わせない。
「〜〜〜っ」
バラ色に染めていた頬は、怒りでより真っ赤になる。拳をふるわせ、もはや笑顔など作れていない。
「というわけで。こちらの都合もあったので、損傷した賠償は当家で賄いましょう。ですが、妻に無礼を働いた行為は見過ごせない」
初めて、マリアを見る。だが、その視線は冷たく、容赦しないといった表情だ。
「ひっ」
マリアは小さな悲鳴を思わず言って出す。
「ロアナ家との付き合いを考えた方が身のためだろうな」
周りに聞こえるよう言い残す。




