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45.さようなら。


 それで? 私を急に呼び出すなんて、どういうつもりですの?


 ネックレスをつけたことで久しぶりに彼女(アレ)が表に出てくる。だが、戦いを放棄して呼び出されたことにかなり怪訝そうな様子だ。


 あら、ちゃんと出てきてくれたのに、随分と警戒してるのね?


 だって、あなた……それにしても、随分と祓ってきましたわね?


 おかげさまで。


 ……それで? 私も祓うつもりですの?


 以前は言われなかった言葉。よほど、今のミラは手強くなったのだろうか。自信満々だった彼女(アレ)が、ミラに恐れを感じているようだった。


 さっきは助けられたわ。あなたの力を使ってもあの時は力不足だったことは事実だもの。そこまでの義理はあなたにないはずよね。それに、あなたが自分で逝くって約束でしたわ。


 …………そう。あいかわらず甘いこと。そんなではレディの闘いでは勝てませんわよ。


 えぇ。これから鍛えますわ。


 ふふっ。最後に私好みの格好してくれたのね。ありがとう。最期に……忠告しますわ。あのマリアとかいう小娘。私も相当な悪女でしたけど、彼女も一筋縄ではいかないタイプですわよ?


 そう言い残すと、ミラの身体から彼女(アレ)がいなくなるのが分かった。







「はぁっ、ミラ……ここにいたのか……」


 ネックレスを身につけたミラに気づくと、どちらか見定めてくる。


「っと、これはどちらかな」


「大丈夫ですわ。彼女(アレ)とはお別れしましたわ」


「そうか……なら」


 急に腰に手を回され、顔を近づけてくる。


「ルッ……ルーシス様!? ここは人目がっ!! いえ、そもそもこんな時にっ!!」


 必死に両手で口を塞ぐ。簡単にその手も外されるが、それ以上迫ることはない。


「あぁ、良かった。どうやら本当に君のようだ」


「試したんですか!?」


「一度彼女(アレ)に騙されかけたんだ。念のためだ。それにしても……」


「えっ!?」


 離れていた距離がもう一度近づく。


「ずっと我慢している身としては、こんなに着飾った妻にキスも許されないのは納得できないな」


 今度こそ本当に唇が迫った時、空気が変わったことに気づく。


「っ!? ルーシス様!!」


「あぁ。なんて()の悪いヤツだ」


 アレが視えないはずのルーシス様だが、ヴァロアナ家に長年取り憑いていたアレに限っては例外のようだった。


「人の欲望の集まる場で、目隠しとなる黒服も着ていないとなれば、やはりお出ましってとこだな」


「えぇ。ですが、前回とは準備が違いますわ」


 黒い闇から、片目が異常にぎょろつくソレは、まるで公爵様の目をそのままはめている様にも見える。


『ホシイッ……ヴァロアナ家……トウシュ……モット……ホシイッ』


「……お前にくれてやるものはない。前公爵の視力を取っただけでも死刑に値する」


 ルーシス様が前に立つ。ソレは、まるであざ笑うような雄叫びを上げ、その身体にめがけ勢いよく飛びかかろうとする。


(レディ)に代わるなど、僕もまだ鍛錬が足りないな」


 少し残念そうにため息をつくと、さっと身をかわす。ソレの目の前には、不適な微笑みを浮かべ思い切りグーパンチを下から上へ突き出す妻が現れる。


『〜〜〜〜っ!!??』


 前とは違う。明らかに除霊をモノにした拳は、ソレの核を的確に打ち壊してきた。


「逃がしませんわよ? その身に取り込んだ魂、全て解放しなさい」


『ァ……ガァッ………』


 他のアレ達よりも重いのが分かる。


 (オニ)と言われるだけのことはありますわ。凄い抵抗ですわ。でも……


「逃がしませんわっ」


 更に強く力を込める。だが、ソレの抵抗は強く、引き離そうと手を振りかざそうとしてきた。


「んんっ!!」


「ミラっ!!!!」


 その時だ。あの時の黒ヒョウがルーシス様の声とともに現れる。だが、いつもよりも身体は透けており、声の代わりに鈴の音がわずかに鳴る。そのヒョウは振り上げた腕に噛みつくように押さえ込んだ。


『ガァッッ!?』


 この気配は?


 温かい空気が身にまとい、力が先ほどより強くなるのが分かる。その瞬間、ソレの核となる部分が砕け散ったのが分かった。


 黒い渦が激しい風となって全身を襲う。


「きゃぁっ!?」


「危ないっ」


 危うくテラスから落ちそうになった時、ルーシス様が腕を引っ張るように引き寄せ、そのまま庇うように下にかがむ。








「立てるか?」


 まるで突風が来たように、パーティ会場の外は荒れていた。


「はい」


 ルーシス様に手を支えられ、ゆっくりと立ち上がる。


「何が起こったか、聞いてもいいか?」


「ヒョウですわ」


「だが、あの子達はいないが?」


「ヴァロアナ家の守護獣ですわ。屋敷では、尻尾が3本でしたが、今回はかろうじて姿を保てた様子でしたわ」


「前公爵様の時ははっきりとしていたのだろう? それに、屋敷でも…………僕が公爵になったことが関係するのか?」


 守護獣は、主人に影響する。それは、以前ヒトル皇太子の時に感じたことだ。


「屋敷では、あの子達の影響もあったのかもしれませんわ。今回も……」


 そっとルーシス様の手を握る。


「お父様やお母様、それに、ご先祖の方が力を貸してくれたことは確かですわ」


「両親の?」


 あの時、核が壊れると同時に温かった空気がまるで全身を抱きしめるように包んだ。その香りも、どことなくルーシス様と似ている空気感だった。


「……そうか。僕が守護獣(それ)に見合う器になるには、まだ前公爵様には敵わなさそうだな」

 



 ルーシス様の両親もようやく解放されました。ここまでお読みいただきありがとうございます。もう少しお付き合いください。登録、コメント、評価! 更新の励みとともに、非常に嬉しく思います。

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