43.引き離される2人
もう一度ため息をつかれる。
「だから、そういう可愛い行動は余計に逆効果というか……」
掴まれた裾を顔を真っ赤に指さされながら言われ、こちらまで頬が熱くなる。
「〜〜〜っ」
「分かった。行こう。この際、君は僕の妻だと周りに分からせておいた方が良さそうだ」
「つっ、妻」
「正式に爵位を譲り受けたんだ。夫婦の申請も出しているのだから、あとは大聖堂の許可だけだろう。なぜかそれが遅れているのは決して許されることではないがな」
「それは、大神官様の次を決めるのに揉めているからで、仕方のないことですわ」
大神官の汚職、不正が次々と表に出たことで、大聖堂は大パニックだ。
「ずっと、母の遠縁だからと目をつぶっていたが、その義理も不要になっただろう」
前公爵様の目の怪我は、大神官が訪問のふりをして、ヴァロアナ家を襲った。ということになっている。
実際は、大神官様がアレの負のエネルギーに乗っ取られて操られたことが原因ですけど。まぁ、どちらにしてもそれだけの恨みを買うほどのことをしてきたせいなのですから、自業自得ですわね。
貴族を襲った罪。神官としての職務放棄。ヴァロアナ家の後ろ盾もない大神殿には、ヒトル皇太子が率先して調査を入れている。
「今日の目的は、お話しましたわ。忘れないでくださいね?」
「もちろんだ。気乗りしないが、君の頼みなら断れないな」
会話しているうちに、ロアナ家の屋敷にと到着する。
「ヴァロアナ家公爵様のご到着です」
その案内声とともに、全員の注目が集まる。
「「「っっっっ!!!!????」」」
会場中から響くざわめき。動揺が隠しきれないようだ。
「えっ!? ヴァロアナ公爵!?」
「爵位を継いだとは聞いていたが。だが格好が違うのでは……」
「それに、隣にいるのは……顔を隠していないというのとは正式に夫婦になったのか!?」
「可愛いいな……」
いつもの黒一色のコーディネートとはまるで違う登場に、嫌でも目立つ。
『小物風情がっ!!!!』
一気に押し寄せるおびただしい程の嫉妬、それと比例する数の生き霊による妬み。以前は顔を隠すための扇も、今となっては別の使い道がある。
「ふふっ」
優雅にあおぐその風で、詰め寄ってきた生き霊達は一瞬でその姿を消す。
アレに比べれば、下級も同然ですわ。
前回の対戦では、何もすることが出来なかった。あの事件以来、本気で人ざるモノと向き合い続けた。
正確には、祓い続けたというべきでしょうか。ルーシス様にはとても心配されましたけど。
護衛騎士のローにも、侍女頭のリンにすら話せない。
ただただ私が何もないところに向かって疲れ果てる姿を見せていたので、心配かけていたでしょうね。でも、やっぱり、関わらないが1番彼女たちをを守ることになりますもの。
意識すれば近づいてくる。それがアレの本質だ。
公爵業務で忙しいルーシス様が倒れるたびに駆けつけてくるのは申し訳なかったですわ。
でも、そのおかげでようやくチャンスが来ましたわ。
「まぁ、ルーシス様。ようこそ我がロアナ家のパーティにお越し下さいました。正式に公爵様の引き継ぎをされたとか。ささやかではありますが、よりヴァロアナ家の繁栄を願い、ロアナ家の人脈をもってあらゆる分野のトップクラスの方々を集めたパーティを開きましたわ」
どよめく人々が道を作るように端に寄る。今日のパーティの主催者であり、かつてヴァロアナ家の婚約者候補として最有力とも言われた本物のお嬢様。マリアご令嬢が挨拶する。
「ロアナご令嬢、本日はご招待に感謝する」
「そんな堅苦しい呼び名は悲しいですわ。どうぞ、マリアとお呼びになって下さって」
「いえ、妻を持つ立場となった身。不必要に関係のないご令嬢に気軽に接するわけにはいかないので」
マリアの表情は凍りつく。
「妻……だなんて。まだ正式に手続きは終わってないのでしょう? それに、今宵は今一度誰がヴァロアナ家にとって本当にふさわしい家柄か。今後の付き合いを考える場として用意致しましたのよ」
表向きは公爵家の事業の付き合い先を考えるような言い方だが、正式な妻となる前に考え直せとアピールしているのが丸わかりだ。
「あぁ、そうですわ」
ずっと隣にいたのが見えなかったかのように話しかける。
「ずっと、お相手がどのような方なのか。皆様楽しみにしてましたのよ。レディ同士の交流も貴婦人の大事な勤め。ようやくお顔を出されたのなら、是非お話したいですわ。ミラ様。例えば、どこのお家柄なのか、とか」
最後はひっそりと、耳に近づきルーシス様には聞こえないよう話す。
「おい、今何を……」
「やぁ、ヴァロアナ公爵。その若さで公爵とは実に素晴らしい」
「我が事業の話を是非聞いていただきたい」
前回とは異なり、異国の関係者も多く集まる場では、ヴァロアナ家を畏れる者も少ない。まだ若い公爵に、興味津々に近づく者でミラと自然に引き離される。
「さぁ、行きましょう。皆んなあなたと話すのを楽しみにしてましたのよ」




