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42/50

42.こんにちは。私が公爵夫人です

 いつも以上に派手な装い。侍女頭のリンは力作のメイクを自ら主人に施す。流行を抑えつつ、上品なアクセサリーを贅沢に組み合わせ、その姿はまさに公爵夫人に相応しい。


「ミラ様、今年の流行りはオレンジをベースにした(べに)ですが、やはり色の白い肌にはもう少しピンクを足したお色味がよろしいかと」


「任せるわ」


「それと、こちらのドレスには細やかな真珠を散りばめていますから、首飾りにはダイヤモンドや真珠系統が合うかと」


 白を基調とし、パール素材をふんだんに使われたドレスに合うアクセサリーを用意する。


「そうね。でも、どうしてもこれをお願いしたいわ」


 それは、ルーシス様と初めてデートをした時、アレ(かのじょ)が欲しがり、身につければ憑依する許可を出したネックレスだった。可愛らしいドレスに対しては主張が激しい組み合わせだ。


「……こちらも素敵ですが、本日のドレスには少し不釣り合いかと」


 リンは苦虫を噛み潰したような表情で応える。場を選ぶが、出会った頃に比べると、随分と表情を出すことが多くなった。


 ふふ、はっきりとは言わなくても本音が分かりやすくなりましたわね。でも、今回は譲れませんわ。


「そうね。私もそう思うわ。だけど大事なことなのよ」


「承知いたしました」


 ヴァロアナ家の侍女頭として、主人の希望に最大限に尽くす。リンはすぐに、真珠を散りばめたドレスに、急遽ネックレスの色味に合わせた色真珠を縫い付けるよう指示する。


 真っ白に、光を反射するように輝いていたドレスは、他の色味の真珠とデザインを組み合わせることで華やかさのある、だがより一層上品なデザインとなった。


「素敵だわ。ありがとう」


「ミラ様っ。下の者にお礼をそう簡単に……」


「ふふっ。そうね。でも、本当に感謝しているのを伝えたかったのよ。安心して。今日はいつも以上に言葉遣いには引き締めていくつもりよ」


 侍女頭にはこのネックレスが何を意味するかは分からない。だが、初めて外出された帰り、このネックレスを主人は警戒するように扱っていた。同時に、いつでも持ち出せるようにとも指示されていた品物だ。だからあの日、髪飾りと共に持っていった。公爵様から贈られた貴重な石を使う髪飾りと一緒に。


「本日は、ロアナ家のパーティに参加されるのですよね?」


「そうよ」


 公爵様の塔で記憶が混乱する一件以来、ミラは今まで以上に勉学に熱を入れていた。マナーや公爵家の家系図、この国の歴史については特に熱心だった。


「……お気をつけて。お帰りをお待ちしております」


「どうしたの? パーティなんだから、そんなに心配することないわよ」


「そうですね」


 落ち着きのある対応が、侍女頭をなぜかより不安にさせる。ただのパーティなのだろうか。それに、相手はこの屋敷で働く者なら、いや、社交界では誰もが知っている相手、一時は次期公爵夫人候補にと話の持ち上がったあのロアナ家のご令嬢だ。



「……ミラ様を頼みます」


 なぜかあれほどこだわっていたネックレスは会場で身につけるからと箱にしまい、ルーシス様にエスコートされ馬車に乗るミラ様を送り出す。護衛騎士として同行するあの男、ローにボソリと頼む。


「当然だ。ルーシス様とミラ様のことはこの身に替えても守る」


「当然です」


 ピシャリも言い返す侍女頭に苦笑いをするが、それで終わりではなかった。


「あなた方の……騎士様の誓いは疑いようがありませんから」


「それは、侍女(きみ)達も同じだろう」


「もちろんです。ですが、私達はこの門の外では主人の側にいることは出来ませんから」


「…………訓練ばかりの男の私にはファッションなど分からないが」


「なんです?」


「今日のミラ様は特段に美しい。ヴァロアナ家の公爵夫人として気迫すら感じる」


「?」


「君達なりの方法で、外に行く主人を守っているのだろう? 無力などと言うべきではない」


「……ふ」


「っ!? 笑えるのか!?」


「早く行ってくださいっ。主人の、ミラ様の護衛に集中を欠くことがあれば、塔の出入りを禁止しますよ?」


「もちろんだっ。一瞬の隙は見せないつもりだ」



 そう言って他の騎士同様、馬車を取り囲むように馬で護衛する(ロー)を見送る。


 ミラ様、どうか早くお戻り下さい。














 王室でのパーティで出会い、彼女の生き霊をはじいてから随分と間があいての招待状だった。


「それで、その箱にはあのネックレスが入っているのか?」


「はい。それにしても、もう会場に到着する頃ですよ? 何もおっしゃらないので、ご納得されているものだとばかり思ってましたわ」


「君に危険が伴うことを納得するわけがないだろう。すぐに切り出さなかったのは、君が綺麗すぎるからだ」


 そう言う表情は真剣そのものだ。


「あっ、ありがとうございます。でも、そう言うルーシス様も……いつも以上に素敵ですわ」


 ミラのドレスに合わせるよう、白を基調とした服装がよく似合う。



「だから……そんな可愛い顔でそういうこと言うと……はぁ。今からでもやはり引き返すべきだ」


「まっ、待ってください!! お願いしますわ!!」


 本気で馬車を引き返させようと指示される前に、慌ててルーシス様の手を引き止める。


「…………」


「?」




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