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41.次は私の番ですわ

「ンナ〜〜」


 何もなかったはずのその影から、聞き覚えのある声で鳴くのはまさかの3匹たち。


「まさか……ブランク!? それに……まぁ。グレイにグロウまでどうして……」


「ミア〜」


「ニヤ〜」


 突然現れた守護獣。以前よりも圧倒的に大きくなった姿。そして、尻尾が3つに割れていた姿を思わず重ねる。


 黒ヒョウなのに、尻尾の色は3色。この子達の色だったわ。


「……もしかして、あなた達なの?」


 なんとなく感じる先ほどのヒョウから感じた雰囲気。


「ヴァロアナ家ではこの猫達は魔除けとして飼っていると思っていたが……」


「ルーシス様?」


 少し嫌がるブランクと、嬉しそうに腕の中に飛び移るグロウとグレイをひざまずくと慣れた手つきで優しく撫でている。


「もしかして、先ほどの守護獣(ヒョウ)と関係があるのかもしれないな」


「視えていたのですか?」


 周りの護衛隊達や、ロー、リンが不思議そうに混乱している素ぶりから、もしかしたらルーシス様も覚えていないと思っていた。


「あぁ。あと、あの黒いモノも……君はあんなものを普段視ていたんだな」


「…………あれは強烈な方ですわ」


「そうか……それと、契約の話についても、公爵様と話す必要があるな」






 ベッドで横になり、医師による診察と薬を処方された公爵様は、一気に老け込んだ姿をしている。


「公爵様」


「…………」


 薬の副作用はないと言われたが、こちらの呼びかけに反応がない。ぼーっとした目で部屋の端を見つめている。


「……お祖父様」


 今度はゆっくりと、こちらを見る。


「あぁ。ルーシスか。それに、君も来ていたのか」


 まるで今気づいたかのような反応だ。


「説明して頂けますか?」


「…………」


 今度はどこかを見ているわけでもなく、言葉を選ぶための沈黙だった。


「ヴァロアナ家には敵が多いのは昔も変わらない。繁栄を願うためだと偽りの神官が呪いをかけ、かつての当主は人ざるモノと想定外の契約をさせられたのだ」


 それは、守護獣がアレと交わした話とかぶるものだった。だが実際は、公爵家を陥れるための(はかりごと)に過ぎなかった。


「気づいた時には遅かった。呪術による負のモノとの契約と分かった時には、代償にと身体の一部を……心臓をと要求してきた」


 そこまで聞いてゾッとする。ルーシス様も、黙ってはいるが、内心は穏やかではないはずだ。



「それは……」


「あぁ。我が一族の過ちだ。心臓を取られても仕方がないかもしれん」


「…………」


「だが、契約は重い。簡単に取り消すなどアレ相手では無理だった」


 人ざるモノを甘くみた報いなのだろうか。どれほどの年月、視えない恐怖と闘ってきたのか。胸が痛くなる。



「それで、神官に救いを求めたのですか?」


「そうだ。黒衣装に身を包み、神の力をより身近に得るため、時折り伴侶には神力とのつながりのある相手を選んできた。もちろん、周りに不自然に思われないよう、他の貴族と同じように政略結婚も併せながらだ。神託で塔の石、そして、当時の最も力のある神官が可愛がっていた猫を譲り受け、次世代を守りぬいてきたのだ」

 

「父や、母はどうして?」


「あやつは……昔から誰にでも甘く、身体も弱かった。その身を守らせるためにと娶った妻にも。家のことに一切関らせようとしなかった。そして……お前の母は、夫を守れなかったと自分を責め、病に伏した」


 ずっと公爵様がルーシス様との距離感をわざと突き放しているように感じていた。


 本当の公爵様は、もっと優しい方なんですわ。でも、同じ過ちを繰り返さないためにそう振る舞ってたんですわね。


「だが、終わったのだろう?」


 公爵は、ずっと顔を背けていた。そう言いながら見せるその左目は、真っ白になっていた。


「っ!!」


「その目は……」


「あぁ。見えん」


「…………」


「この目1つで長い呪いが終わったとはなんとも奇跡だ」


「……いいえ」


 ずっと静かにしていたミラが口を開く。


「ミラ?」


「ん?」


「少しの時間、アレと拳を交わし、視えたものがありますわ」


「?」


「アレは、ヴァロアナ家の……ルーシス様のご両親だけでなく、他のご先祖様も長い時間をかけ取り込んでいるはずですわ」


「っ!?」


「なんとっ!?」


 黒い闇にまぎれて聞こえてきた悲しい悲鳴。


 もし、あの声がご両親なら……いいえ。誰であろうと、絶対に解放しないといけませんわ。


「ですので、もう一度、対峙します」


 ルーシス様は勢いよく立ち上がり、椅子が転げ落ちる。


「そんなこと、許すわけ……」


「大丈夫ですわ」


 固く握りしめられたその拳を両手でそっと上から重ねる。


「次は、負けませんわ」



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