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40.もう一つの存在

『……ヒト……か?』


「うふふっ。何百年もかけてまだ乗っ取れないなんて、無能もいいところですわ。私の旦那様に手を出そうとするなんて、本当に運がないですわね」


『ッ!!!!』


 逆上したソレは、身体を倍の大きさに、黒い塊となってこちらに押し寄せてくる。


 さぁっ、早くその手を動かしなさい!!


 っえ!?


 私もその頭にある石のせいで不快極まりない状態ですのよ? それも、あんな醜いモノ相手なんて。アレの1番黒いところめがけてパンチでもすれば大人しくなりますわよ。


 そんな簡単な話じゃ……


 あなたが完全に意識を手放してくださるなら、私がしてとよろしいのですけど? ふふん、弱点を見極めるだけでも十分な貢献ではなくて?


 …………。


 所詮は欲でこの世に留まるアレなだけあると呆れる。だが、具体的な急所の把握は確かに心強かった。震えていた足はしっかりと踏ん張りがきくようになっていた。思い切り向かってくるソレに向け、拳を前に突きさすように下から振りかざす。


『っっっぅっ!!??』


 手ごたえはあった。だが、一瞬後ろによろめいただけで、ソレの怒りは、更に大きく、体積も膨れ上がる。


 えぇっ!? 全然効いてませんっ!? 渾身の一撃でしたわよ?? 話が違いますわっ。


 うーーん。思ったよりしぶといですわね。さすが、だてに頂点の闇、鬼、なだけありますわ。


 それでどうしたら……


 お手上げですわね。


 っ!?


 この屋敷の不快な石はもう攻略して、唯一機能しているのはその小さなカケラのみですわ。私の力も併せての拳であの程度のよろめきしか効かないのでしたら、諦めるしかありませんわね。


 淡々と、ルーシス様に手を出そうとするのは許せないと言いながら、急にどうでもいいと突き放すような態度。


 そうですわね。言葉が話せても、あなたもあちら側ですものね。


 そうしている間にも、大きな地響きのなるうなり声とともに、ソレはまっすぐこちらへ向かってくる。



『ッ!? ガァァァアウヴッ……』


 その寸前、ソレは急に倒れこむ。


 ??????????


「っ!! あれは」


 公爵様と初めて会った時に現れた神々しい雰囲気にあふれた美しいヒョウ。だがその大きさもまたあの時とは比べ物にならないほど大きい。


『ここは私の領域。すぐに出ていかなければ骨を噛み砕く。消えろ』


『フザ……ケルな。何百年ト待っタ。ケイヤクダ』


『既に何人と喰っただろう。去れ』


 ヒョウは歯をむき出しに、威嚇するようにうなる。


『契約は、その子孫の身体ダ』


『契約外をしたのもそちらだろう。それに、代償は身体の一部のはずだ』


『ッ!!?? ナゼシッテ……』


 逆ギレしたソレは急に飛びかかってくる。


『ッウゥ、ガァァァアッッッ!!!!』


 ヒョウは軽やかに交わす。時間がゆっくりと流れるように、綺麗な曲線が見える動きでそのまま喉元に喰らいつく。


 そのまま強い光と爆発音、それと共に強風に包まれる。









「…………?」


 全員、不思議そうに顔を上げる。急に身体の自由を奪われ、建物内だというのに経験したこともないような突風。そして記憶が混乱し、何があったのか理解できない状況だった。


「…………うっ」


 ミラは屈むように顔を上げる。


「ミラ」


 落ち着いた声がすぐ耳元から聞こえることに驚く。


「っ!! ルーシス様??」


 とっさにしゃがみこんだ身体は、強い風で後ろへ飛ばされ、動くようになった身体ですぐにミラを受け止めくれていたのだ。


「ありがとうござ……」


「ありがとう」


「はえっ?」


 座った状態でそのまま後ろから抱きしめられる。


「あっ、あの!! アレは一体!?」


「……解放された」


 おそらく、まだ正式な公爵ではないルーシス様にアレの声も、姿も視えてなかったはずだ。それでも、何かが終わったことは分かる。


「公爵様!!」

「大神官様!!!!」


 倒れている2人のもとへ、護衛隊達が慌てる。


「ルーシス様!! ミラ様!!」

「ご無事ですかっ!?」


 心配そうな声でローと侍女頭、リンが駆けつける。


「あの……今何が?」


「申し訳ございません。その、記憶が飛んだような……」


「気にするな。そして、今後も考えなくて良い」


 それは、これ以上詮索するなを意味する命令とも受け取れた。


「かしこまりました」


「それより、公爵様を寝室へ」


 護衛隊は一瞬反応が遅れるが、主人が意識を失っている今、ルーシス様の命令が彼らの絶対となる。


「あの、大神官様はどう致しましょう」


「あぁ。目を覚まし次第神殿に送り届けてくれ」


 まだ混乱している場をあっという間に指示し、それぞれが持ち場へ帰っていく。記憶がない。だが余計な詮索をせずにこの手際の良さはさすが公爵様管轄ともいえる。


「2人も、馬を連れて戻ってくれ。僕たちは公爵様の側にいる」


「かしこまりました」


「では失礼致します」


 2人も、それ以上は何も言うことはなかった。


「歩けるか?」


 手を差し出される。どこか、ほっとしたような表情をしている。


「えぇ。大丈夫ですわ」



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