37.憑いています
「ルーシス様が歩いた方角から考えて、公爵様の屋敷でお間違えないかと」
「そう……」
両親の話をしたことが原因なのかしら。ルーシス様がまだ聞かされていない話をいきなりされたなんて言われても、受け入れられなくて当然ですわね。
「お願いしますわ」
どんなことがあっても守る。そうお約束しましたもの。落ち込む暇なんてありませんわね。
「なんだ?」
公爵様の騎士隊は明らかに不満そうにこちらを見る。
「失礼だぞ。この方が誰か、名乗らずとも理解できないか?」
ヴァロアナ家の屋敷において、使用人達ですら黒を基調とした服を見に纏う中、唯一関係のない装いに、明らかにルーシス様配下の騎士を連れているレディなど、誰もが知っているはずだ。
「いっ!? ま、まさかご婚約者のっ……」
「おい。まさか本当に分からなかったのか。それでよく護衛が務まるな」
「失礼しました。まさか単身で来られるとは思わず……」
「いいのよ。それより、ここにルーシス様は来なかったかしら?」
「いえ、こちらには……」
明らかに視線が泳ぎ、動揺しているのが目に見えて分かる。
「あぁ、なるほど。強行突破されたのだな」
ローの一言にバツが悪そうに沈黙する。
「強行突破?」
「公爵様の返事を待たずにルーシス様が塔に入られたのでしょう。普段はそんなことしない方ですが、先ほどは様子が違いましたし、彼の様子から見ても自分が通してしまったと隠しておきたかったのでしょうね。まったく、ルーシス様が公爵様に会えばすぐに分かることだというのに」
「うぅっ。馬糞担当などごめんだ……」
「とりあえず、ここを穏便に通してくれるなら話を合わせてやらんこともないがどうする?」
「…………分かった」
公爵様の塔には何度か来たことはあるが、ここまで人手がいないのも珍しい。
「門番が一人なのね。何かあったのかしら」
「さすが、よくお気づきですね。公爵様の塔の門番の護衛より優先すべき事態があったということになりますね」
「まさか、侵入者?」
「おしいですね。それなら私がこちらにご案内することはないですし、あの門番1人残るのも不自然です」
「そうね。ということは、誰か来訪者がいてその案内に人手がいっているとか?」
「素晴らしいですね。おそらく、予定外のかなりの大物が来られたのでしょう。しかしミラ様は度胸といい、その推理力といい、私たち騎士に負けずおとらず卓越したものがございますね」
「それは……褒められているのかしら」
「これは、レディに大変失礼致しました。なにしろ最低限の会話しかない日々なもので、つい話してくださるのが嬉しく無礼な振る舞いをしてしまいました」
それは本当に思わずしまったという表情だ。
うーーん、人間関係でいえば、私もどちらかと言えばもっと楽な環境で育ちましたもの。騎士といっても、自分の身は自分で、でしたし。とにかく日々の生活に会話は必須。私の読み書きもセバスの手伝いをしているうちに自然と覚えていったものでしたわ。
「いいのよ。それにしても、ここの皆さんは規律を重視してますが、あなたはずいぶんと自由に見えますわね」
「ふふん。一度は失ったも同然の身です。それに、ミラ様のおかげでもあります」
「私の?」
「えぇ。ルーシス様は随分とヴァロアナ家のルールを変えられました。失敗した者にも再起復活の機会を設けただけではなく、騎士同士の会話も許可されたんですよ。まぁ、未だにほとんど挨拶くらいですが」
それは、今までが異常だったのでは?
「それより、護衛が駆り出されるほどの方が来ているのならルーシス様もそちらに行ってしまったのかしら」
「それは考えにくいかと。あの門番の話だとルーシス様は強行突破されたようですし、我々の召集がかかっていない点からも公爵様単独のお迎えかと」
「そうね。でも公爵様に会いにきたわけではないのかしら」
「うーーん、今の状況ですと、我々も不法侵入になりかねますから。早く見つけるにこしたことはありまけんね」
その時、背中に寒気を感じる。
この感覚は……
「ミラ様、どうかなさいましたか?」
「…………っ」
この感覚は、どうして? この屋敷には浄化石の効果で守られているはずじゃ……
ドロドロとした、大きなアレの集合体。前に視た数とは比較出来ないほどの大きさに膨れ上がったその固まりは、ドアからはみ出るほどだ。
「〜〜〜〜っ」
ローが反応するより前に、後ろから口を塞がれ、強い力で引っ張られる。
ローは一瞬剣に手をかけるが、慌てて頭を下げる。
「しーーっ」
「ルーシス様!?」
「うん。もう少し離れたところに行こうか。話はそのあとで」
怒ってらっしゃらない?
喧嘩別れのような状態で離れたとは思えないほど、落ち着いた眼差しでこちらを見る。
「…………」
静かにうなずき、そのまま手を引かれ別の部屋へと移動する。
「さてと。まずはどうして君がここにいるのかな?」
あれ、やっぱり怒ってらっしゃる?
「申し訳ございません。ミラ様を屋敷へと送るようにご命令されましましたが」
「今は彼女と話している。余計な発言は許可していない」
「申し訳ございません」
「あの、ローは……彼はちゃんと屋敷へ送ってくれましたわ」
「ロー?」
心なしか、ローの名を口にしただけで先ほどより空気がピリついた気がする。
「そのあと、私が倒れてしまってもすぐに屋敷医を呼んでくれて」
「えっ、たっ、倒れたのか!?」
先ほどの雰囲気が変わり、急に両肩を支えるように持つ。
「あ、ほんの半刻ほどで、もうなんともな……」
「半刻っ!?」
「それで、意識を失っている間に彼女と話をしたのですが」
「アレと話をしたのかっ!?」
「ルーシス様っ!! 大事な話なんです」
「……分かった。だが、身体は大事ないのか?」
「はい、問題ありません」
「そうか。ロー……先ほどは君の話を遮ったな。すまない。悪いが外で誰か来ないか見張りを頼む」
「……はっ、はい」
まさかルーシス様が騎士に謝罪するなんて。なんだか目が虚ろですし、もしかしてあの話と関係があるのかもしれませんわ。
「嫌かもしれませんが、聞いてほしいんです」
今度は黙って聞いてくれているのが分かる。
「この屋敷には、はるか昔、ヴァロアナ家当主が契約を交わした人ざるモノが住み着いているんです」
「契約?」
「絶対的な地位をと望む代わりの代償。それが跡継ぎの身体です」
「…………」
「ですが、現公爵様も、ルーシス様も黒い衣で身を覆われていますよね? 目眩しとして。そして、神力と縁の深い家と身内となり、大神殿とは比べ物にならない効果のある浄化石をお持ちです」
「…………そうだな」
「100年、200年と経ち、ソレは機会を伺っていたんです。護りが弱くなる機会を。当主の内に息を潜め、憑いているはずです」
ここまでお読みいただきありがとうございます!! ブクマ、コメント、そして評価はとても、とても励みになっております!!引き続き宜しくお願いします。




