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35.すれ違い

 「あれ、ルーシス様?」


「あれって……急に動かなくなるから驚いたんだぞ……この部屋が、何か関係しているのか?」


「あっ、ええとですね……」


 どうしましょう。アレを追い出す為にここまで来たというのに、条件つきとはいえ受け入れましたなんてどう説明すれば……


「どうした?」


「ですから……」


「ミラ。僕に嘘をつくなんて……するわけないよね?」


「っ!?」


 いつかの甘い尋問でしたように、距離が限りなくゼロになるほど詰め寄られる。髪を持つその手は、そのままそっと口づけを見せつけるようにする。


「それで? どうしたか言う気になった?」


「なっ、なりました!! なりましたわ。ですので、はっ、離れてください!!」


 心臓が飛び出そうなほど動悸が激しくなる。ここで誤魔化すつもりはなかったが、ルーシス様ですら知らない話をしていいのか、迷いがあった。


「彼女と話をしたんです」


「彼女って、君の中にいるアレ?」


「はい。理性も……生前の彼女のままの人格かと。姿もまるで生きている令嬢のようでしたわ」


「穏便に話がつくとは思えないな」


「はい。秘密を教える代わりに、私の身体を使いたいと言ってきましたわ」


「当然断る話だな」


「その……ある条件付きで受け入れましたわ」


「受け入れた!? どうして……」

 

「ですから、どうしても必要な情報をもらいたくて」


「ミラ」


 名前を呼ぶその表情はいつもと違って厳しい。


「必要な情報なら僕が手に入れる。アレから教えてもらうものなどない。それに、それ自体信憑性すら怪しい。すぐに取り消すんだ」


「…………ルーシス様のご両親と、公爵様、それに、あなたに関わることなんです」


「両親の?」


「すみません。勝手に……あの、お父様が亡くなったのは身体が耐えきれなくなったことが関係していると言われて……浄化石がいくつか砕けているのも、アレの類が原因で……ヴァロアナ家がなぜ黒衣装にこだわるのかも……ルーシス様のこれからに影響すると思うと……」


「父は病気で、母もその疲労でと聞いている。それ以上はない」


「あの……」


 そのまま後ろを向かれ、それ以上声をかけられる雰囲気ではなかった。


「おかえりなさいませ。外に異常は見られませんでした」


 護衛担当になったことがよほど嬉しかったのか、聞かれてもいない報告を意気揚々もするローだったが、目も合わさず、どこか距離のある雰囲気にすぐに異変を察知する。


「何か問題でも??」


「いや構わん。それより彼女を頼む」


「はい。あの、失礼ですがご一緒しないので?」


「僕はあとでいく。先に塔に戻ってくれ」


「かしこまりました」


 屋敷内で、塔から離れる時にはルーシス様といえど護衛騎士を連れて行くが、いつもというわけではない。幼い時から護身術、馬術、剣術を鍛えてきた腕前は、騎士達にも引けをとらない。


 

「…………」


「…………」


 これ以上は失言になる。せっかくの復活から直属の護衛メンバーに選ばれたというのに、ここで気に触る行動は避けたいだろう。


 さすがに、2度目のチャンスがあるなんて思えませんもの。


「お願いしますわ」


「では失礼致します」


「あぁ」


 結局、目を合わせてくれませんでしたわ。


 歩くスペースこそ合わせてくれていたが、顔を明らかに背けられていた。


 ズキン


 胸がこんなに苦しいなんて。


「おかえ……ミラ様、お顔の色が……すぐにお医者様をお呼びして」


 侍女頭が出迎えると同時に慌てて指示をする。


「大丈夫……」


「お手を支えても?」


 ローが許可を求めるが、返事をする余裕がない。


「いえ、ミラ様は私が支えますので、あなたは下がってください」


「ですが……」


「これ以上あなたが出来ることはございません」


 侍女頭はぴしゃりと言い放つと、ミラを支え、部屋へそのまま向かう。


 



 うぅっ、胸が苦しいですわ。でも、話せないくらい身体が重いなんて変ですわ。


 気が遠くなっていくのが分かる。






 この暗闇は……


『ずいぶんと先ほどぶりですわね』


「……私はいったい……それに出てくるなんて契約違反ですわ」


『意識化に出るには許可が必要って約束ですけど。あなたが勝手に意識を失っただけですわ』


「意識を……」


 生まれてこの方、身体の丈夫さが取り柄でしたのに。


「もしかして、あなた何かしたんじゃ」


『私は何もしてませんわ。私はね』


「何でも話すって約束でしょう?」


『言ったでしょう? ここには表には出れなくても常にこの屋敷の人間を狙ってるモノがいるんですわ。随分とご傷心ですわね。言ったでしょう? 心身ともに強くなければ喰われますわよ』


「…………」



『まったく、あなたもアイツらにこの屋敷の人間だと認識されてるなんて。面倒ですわね』


「…………」


『何ですの? さっきは何でも教えろって条件を出した割に、何も聞いてきませんのね』


 ヴァロアナ家について詮索するな。まるでそう言われたように拒絶されてしまった。


 私が関わってこれ以上嫌われてしまったら……


『……何を迷っているか知らないけど、今更逃げるなんて許しませんわよ?』


「逃げるなんて……」


『あなたが死ねば私も困りますの。それにあの素敵な殿方もただでは済みませんもの』


 先ほどまでの見開いた目が、ルーシス様の姿を思い出したかのようにうっとりと頬に手を当てる。


「ルーシス様にも危害があるって、どういうことっ!?」


『だから言ってますでしょう? 常にスキを狙われているって。この家の、正確には大昔の人間が厄介な契約を結んでいますもの。一族全員喰らうまで、しつこいでしょうね』



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