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34.取り引きしましょう

「それじゃあ、行こうか」


 当然、公爵様から浄化石を保管する塔への出入り許可がおりたことは門番にも伝わっていた。誰も邪魔することなくすぐに入れる。


 昨日の騎士は、いない。いくら交代で護衛をしているとはいえ、ルーシス様の近くに配置するメンバーは顔がしれている。


「あっ」


 そして、今日新しくその担当が変わり、彼がいつかの汚名返上を無事に果たした例の騎士だと気づく。


「本日よりお2人の護衛任務を担当します。ローと申します」


 ルーシス様が公爵様の隊に潜入させ、ミラがこの塔を突破するのに手を貸してくれた騎士であり、ミラもまた、彼の命を救った恩人だ。


「あなたは、あの時の」


「こうしてお側でお仕いすることが出来、光栄です」


 深々と礼をしたまま、ニカっと気づかれないよう笑いかける。


 ヴァロアナ家の騎士が表情を出すのは珍しい。


「潜入していましたので、公爵様の管轄には僕が1番詳しいだろうと志願しました」


「そうですか。宜しくお願いしますわ」


「ミラ、こちらへ」


「あっ」


 時間にすればほんのわずかな挨拶だったが、すぐに自分のもとへ引き寄せると、ローに忠告する。


「前任者がなぜ外されたかは聞いているな? それと、2度機会を与えてやるほど人手不足ではないことを忘れるな」


「承知致しました」


 さすが厳しいヴァロアナ家のチャンスをものにした騎士だけあり、すぐに表情を引き締めると隙のない警備位置に戻る。



 あの時は外だけでしたけど、建物の中はなんと言いますか……


「大丈夫?」


 引き寄せられた時に握られた手はそのままに、階段だらけの塔を進んでいく。


「はい。むしろ、空気が綺麗で驚きましたわ」


 屋敷の中でも断トツに、明らかに空気が澄んでいる。だというのに、上にあがるほど頭痛がするのは身体に取り憑いたアレが関係しているのだろうか。


「…………」


「……君はもう少し頼ってくれてもいいんじゃないか?」


「はい? えっ!? あっ、きゃあ!!」


 急な階段を登っているというのに、なんの迷いもなくミラを抱きあげる。


「ルーシス様、あの降ろ」


「降ろすつもりはないが?」


「…………重いですし」


 屋敷に来て、3食おやつ付の生活で、明らかに体重が増えた。それを、まだ先の長いこんな急な階段ばかりの状況で抱えられては羞恥心が耐えられない。


「全く問題ない。それに、顔色が良くない。辛いだろうが、少し耐えてくれ」


 事実、1番上の部屋に近づくほど頭痛は強くなるのが分かる。


「はい」


「こちらが目的のお部屋のようです。私が先に中を確認致しますか?」


 ローが灯りをドアの方へ近づけ、確認をとる。他の塔には中にも護衛隊がいるが、この頂上にのみ部屋を1つ設けた階段だらけの塔はその限りではない。


「問題ない。中には2人で入る。何かあれば指示があるまで待機するように」


「かしこまりました」


 


「まぁっ、これは……」


 ルーシス様に抱えられたまま部屋に入ると、先ほどまでの頭痛が嘘かのようにピタリと止まる。


「立てるか?」


「大丈夫ですわ」


「この部屋に入るのは僕も初めてだが、まさかここまで何もないとは」


 豪華なカーペットも、高級な家具も何もない。その代わり、高い塔の窓からは屋敷全てが見渡せる。部屋の真ん中にシンプルなテーブルが1つ、そしてその上には大神殿が扱う箱よりもはるかに小さい入れ物が乗せられている。


「でも、これはとても綺麗ですわ」


 髪飾りに使われたかけらよりも更に澄んだ紫色に、輝きが強く光る。これに比べれば、大神殿のモノは薄黒くすら思える。


「あぁ。だが少しヒビが入っているな。それに、かけらがいくつかある。カケラがあると聞いた時はもとからあったモノを分けてもらえたのかと思ったが……まるで意図的に傷つけられたように見えるな」


「…………」


 思わず少し触れてみる。まるで引き寄せられるように手が伸びていた。


「ミラ?」


 その瞬間、名前を呼ばれた気がしたが返事が出来ないまま意識がとんでいく。




「真っ暗?」


 先ほどまでルーシス様と塔の最上階にいましたのに。


『やっと話が出来ますわね』


 ふいに後ろからアノ声がする。


「あなたは……」


『ウフッ、随分と大変でしたわ。やっと自由な身体を手に入れられたのに、なぜか強制的にこんなところに閉じ込められたんですから』


「すぐに逝く約束でしょう?」


『いいえ、すぐにだなんて言ってないわ。それに、あなたがくれたのでしょう? この世とつながりをもてる依代(よりしろ)を』


「依代?」


 最期にあげると言ったネックレスを思い出す。


『あれは私が現世に留まれる私のモノ。ありがとう。それに、良く見れば素敵な殿方までいるじゃない。彼なら結婚してあげてもいいわ』


「ルーシス様に手は出させないわ」


『ダメよ。彼でなければ意味がないわ。地位も見た目もようやくこの私に釣り合うレベルの相手が見つかったんですもの。逃さないわ。それに、忌々しいあの石ももう少しで壊せそうですもの』


「石って……あなたが浄化石にヒビを!?」


『……あら、私だけじゃないわよ。つい最近まで眠りこんでいたんだから』


「じゃあ……」


『あの石のせいで表には近づけなくても、私みたいに中に入って機を待つ者がいないとでも?』


「ルーシス様に?」


『ふふっ、彼はまだ早いわ。若いからスキがないもの』


「まさか、公爵様……」


『ふふん。あの老いた身体でよく自我が保てているものだわ。まぁ、あの格好のせいでもあるわね』


 あの格好というのが、黒にこだわる装飾品を意味しているのだろう。


「でも、どうして黒なのかしら。神官たちは白を好むのに」


『…………』


「何?」


『あなたって、それだけ力あって何も知らないのね』


「??」


『いいわよぉ。私の旦那様にも関わることですものぉ。教えてあげる。その代わり、私が表に出るのを承諾してくれたらね』


「結構よ。今日だって、あなたを追い出す為に来たのよ」


『あらぁ、いいのかしら? 今は若さと力でなんとかなってるみたいだけど、彼のお父様みたいに数で負けたらどうなるかしら〜』


「…………」


『あらあら〜?? それも知らないのかしらぁ?? 生身の人間って不便ねぇ。な〜んにも分からないんだから。私なら彼を守ってさしあげられるのに』


「いいわ」


『まぁっ!!』


「あなたにこの身体を貸すわ。その代わり、私の許可した時だけよ。あのネックレスをした時だけ、意識を共有してもいいわ。そして、嘘偽りなくあなたの知っていることを答えること」


『え〜〜、それって私に不利ですわ』


「それがのめないならすぐにこの身体から出ていきなさい」


『ふーーん……まぁ、いいわ』




 そこで意識がまた飛ぶ感覚になる。


「ミラっ、聞こえるか?」



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