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33.距離感

「おかえりなさいませ」


 門のところでは、公爵様の隊に暗黙の睨みをきかせながら騎士が待っていた。そして、その横には侍女頭もコートを抱え待機していた。


「日が暮れてきては寒くなりますのでこちらをお召しください」


「ありがとう。わざわざ持って来てくれたのね」


「当然のことでございます。冷えはお身体に(さわ)りますので」


 筋肉と装備で覆われた隊員と騎士に関しては、身体が冷えると言われてもピンと来ていない様子だ。


 そういう私も、つい最近まではほとんど年中薄着で外を出歩いていましたから、そこまで寒いとは感じませんけど……


 だが、貴族のレディならそういうわけにもいかない。


 むしろ、屋敷内とはいえ建物の外に出るのですから、侍女達に上着を用意してさせるべきでしたわ。


 侍女頭が貴人として自然な振る舞いになるよう、さりげなくサポートしてくれているおかげで、ずいぶん人を使うことにも慣れてきた。


 まだ、侍女達とだけの時はつい敬語になってしまいますわ。人がいる時には気をつけなければ。


「…………」


 騎士だけでなく、隊員が少し不思議そうにこちらを見ているのが嫌でも分かる。


 やっぱり、侍女頭とはいえ、コートくらいで使用人にお礼を言うのはおかしいかしら。でも、わざわざ持って来て待っていてくれたんですもの。何も言わずに受け取るなんて出来ませんわ。


「ミラ様、先に発言しますことを失礼します」


 侍女頭はそう言うと、隊員や騎士達の方へ向くと、厳しめの口調で注意する。


「レディを、それも次期公爵夫人である方をそのようにジロジロと見るのは失礼極まりありませんか?」


 自分たちよりも若く、はるかに小柄な侍女頭にお灸をすえられ、慌てて頭を下げる。


「しっ、失礼致しました」


「申し訳ございません」


 うっ。本当は私が叱責すべきところですわね。ルーシス様も呆れているんじゃ……


 ちらりと見てみると、いつもの表向きの無表情に戻っていた。特にそれ以上触れることなくエスコートで塔へと戻る。




「驚いたな」


「えっ?」


「ミャー」


「ミー」


「ンナー」


 先に共同部屋で猫達とおもちゃで遊んでいると、シンプルな服に着替え、椅子に腰かけながら意外だと話す。


「それは……グレイとグロウの成長に、ですか?」


 痩せ細っていた2匹の兄弟猫も、たっぷりの餌に十分な遊びで、手足はすらりと伸び、いつのまにか体格もしっかりとしてきた。


 まぁ、なぜかブランクは手足よりもお腹周りが集中して成長してますけど。


「ふっ。いや、それもあるが。君と侍女の関係だ」


 あくまでも侍女達はミラの個人的な部屋にしか出入りしない為、実際ルーシス様がやりとりを目にすることはない。


「あっ……」


 主人は下の者と一線を引くべき。何度注意されても長年の癖でつい距離感を間違えてしまう。


「勘違いしないでくれ。僕にはよく分からないが……君のいいところだと思っている。意外だと言ったのは、この家に長く仕える侍女が視線をあげ主に声をかけ、騎士でもないのに君を守るように視線の盾となっただろう。それも、侍女の仕事を誰よりもわきまえている侍女頭がそんな行動をするとはな」


 侍女は身の回りの世話こそすれど、今日のような侍女頭の振る舞いは本来騎士のすべきことだ。


「彼女に罰を与えるのですか?」


「まさか、そんなことはしない。まぁ、君に必要もないのに視線を注いだあの騎士はしっかりと叩き直すとして、仕事以上の働きをしたのだから、むしろ褒美をあげるべきだろう」


「そうですか」


 確かに、私がおかしな振る舞いをしたとしてもレディを見ることは失礼になりますものね。


 使用人達に対する処遇は以前よりも大分やわらいだ。今までであれば、今回のようなミスにも叩き直すなんて生やさしいことはなかった。ミラ自身も、ルーシス様の判断に口を出すことを控えている。


「だが、侍女頭は褒美目的ではなく、自然と動いたということが実に不思議だ」


「え?」


「ずいぶんと君には心を開いているようだ」


 そう言うと、猫じゃらしを手にとり、隣にかがんで3匹の相手をする。


 正確には、ブランクは前足を軽く動かすだけで、残りの兄弟猫が全力で遊んでいた。


「君は手懐けるのが上手い」


「〜〜〜っ!!」


 それは、あなたもですわ。






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