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31.気合いを入れて行きます

「ふぅっ」


「ミラ様、大丈夫ですか?」


 屋敷に入る直前、まるでそこへ行くのを拒否するように強烈な吐き気に襲われた。


 間違いなく、何かが私の中にいますわ。おそらく、彼女で間違いない、ですわね。


「あの、お着替えをお手伝いしても宜しいでしょうか?」


「えっ、えぇ。お願いしますわ」


「では、失礼致します」


「もし……」


「はい?」


「もし、私がいつもと違う態度を取ったら無理やりでもいいから髪飾りをつけなおしてくれるかしら」


「かしこまりました」


 髪飾りを外されても体調に違和感はない。


 やっぱり屋敷に浄化石の効果が大きいのね。だけど、何とかしないといけないことは確かだわ。




「はぁ……」


「…………っ、あの……」


 侍女が髪飾りを手に持ち、じっとこちらを確認するように見る視線に気づく。


 そういえば、頼んだままでしたわ。


「ありがとう、大丈夫よ。さっきは変なことを頼んでごめんなさい。もう下がっていいわ」


「はい」


 それにしても、ずっと屋敷の中に閉じこもっているわけにもいきませんし、浄化石だって、大神殿にあるものが偽物ではなく効果がなくなったのだとしたら? この髪飾りも、ヴァロアナ家の護りの効果も無限ではないと考えた方が良さそうですわ。




「っ!?」


 共有スペースに入ると、なぜかルーシス様はブランクを抱き、外出用の正装のままだった。


「あの、どうかされたのですか?」


 正直、ブランクを抱いているのは理解できる。だが、それならなぜ正装のままなのかと戸惑う。


 ルーシス様は外用の服にはかなり気を遣っているはずですわ。身なりは身分と品を表すからと、同じ服で出かけることもなかったはずですし、ブランクの抱っこなんて、毛がつくからと絶対屋敷用の服に着替えてから近づく程度でしたのに。


「どうだ?」


「ンナー」


 ブランクの反応が薄いのを見届けると、むしろ残念そうにため息をつく。


「あの?」


「ブランクが反応しないということは、屋敷内では出てこられなさそうだな」


「あっ、はい。髪飾りを外しても大丈夫でしたわ」


「では行こうか」


「えっ!? あの、私もまた着替えてきますので」


「必要ない」


「ですが、今……」


「行くのは外ではない……僕が外行きなままなのは君と離れて気が気ではなかったことと」


「っ!!」


「……気合いを入れる為だ。正装は心身に影響するだろう?」


 ルーシス様が自分のためにいつものルーティンを崩すほど考えてくれていることに申し訳なくも、少し嬉しいと思ってしまったことに反省しながら、同じ不安を感じていたことを察してしまう。


 あんなに重警備で守られている大神殿の浄化石が偽物である可能性は低いですわ。そうなると、効果が無くなってしまった可能性の方が高いですもの。私の身体にアレが取り憑いているのであれば、かけらだけで作った髪飾りの効果もどれほど持つか……


 ということは、まさか……


「今から公爵様に直談判しに行く」















「公爵様に緊急の要件がある」


「本日は誰1人通さないようにとご命令が下っております」


 言い方こそ丁寧だが、畏まる様子もなくルーシス様に威圧的に近づくと、上から見下げるように話す。


 すかさず騎士が剣に手をかざし今にも抜きそうな勢いで対抗する。


「失礼だろうっ、次期公爵様でありお孫様である方が緊急だと言っているのだ。話くらい通しに行くのが筋では?」


 あくまでも公爵様直属の護衛隊が従うのは当主のみ。ヴァロアナ家ではお互いが使用人をそれぞれの管轄で雇っている為か、相手が次期公爵様だろうが関係ないのだろう。命令は絶対に等しい。


「良い……これを渡すだけでいい。何も渡すなとは言われていないだろう」


 そう言うと、騎士は下がり頭を下げる。古いカードを差し出された護衛はもう1人と目を合わせ頷くと、それを受け取りその場を離れる。


「……お待ち下さい」


 一体カードに何を書いたのかしら。古くみえましたけど……


 しばらくすると、先ほどの護衛隊が慌てて戻ってきた。先ほどとは違い、ひどく慌てている。


「っ、大変失礼致しました。公爵様よりお通しするようにと承っております。おいっ、早く門を開けっ」


 もう1人の方は追い返すとばかり思っていたのだろう。すぐには反応出来ないでいた。


「あっ、あぁ。失礼致しました。どうぞ……ですがお2人だけで……」


「いいんだっ!! いえ、失礼致しました。全てご自由にとのことです」


 何があったのか、態度がまるで別人のように仲間をいさめると、こちらに頭を下げる。


「気にするな。公爵様の管轄下では何も起こらないだろう。僕の護衛騎士は待機させる」


「恐縮でございます」


 隊に自分の騎士を潜入させ、公爵様の管轄の弱点を先日指摘したとは思えない発言だ。




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