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29.美しく気高い私

 ……花畑に囲まれた古い古城。鉱山で栄えていた豊かな土地が、かつての領主一家が破産したことをきっかけに、何もかもが枯渇してしまった。


 少なくても、その原因が彼女の影響によるものですわ。


 ぎりぎり人の形を保つソレは、悲痛な叫びを持つ多くの領民、使用人達を苦しめ続けている。


 前からとても話せる状態ではありませんでしたが、今日は違いますわ。


「ごきげんよう……」


『…………』


 目が合う。正確には、意識がこちらに向かったというべきだろうか。


 花をヘアアレンジに使い、薔薇のように艶やかな化粧を丁寧に施され、上品なドレスにはシルクを、そして全体に散りばめられた宝石。


 かつて、あなたが好んでいた姿、ですわね? 税金をどんどん巻きあげ、資源が枯渇するほど贅沢を求めて。


『……ワ……ワタシノ……』


「いいえっ、これは私のです」


「っ!?」


 隣にいるルーシス様には、きっと私が1人で話しているようにしか見えませんわね。でも、


ーーー少しでも君に異変があれば抱えて屋敷へ戻る


 すごい安心感ですわ。


『……かえ、して』


「〜〜〜〜っ!!」


 最初に見たアレの姿は、言葉を交わした瞬間に生前の姿に戻り、当時の流行りであろう高価な装いに、ミラにも負けず劣らずな宝石を身にまとうご令嬢がこちらを(にら)む。


『返して。花も宝石も、贅沢な品は全て私のもの。美しい私のためのものよ。お父様がなんでも言うことを聞いてくれるもの』


「ご両親は、もういらっしゃらないわ」


『なら、使用人を呼ぶわ。あなたを追い出すのよっ、無礼は許さないわ』


「……もう誰もいませんわ」


『嘘よっ!! みんな私を置いていくはずないわっ。誰かっ、すぐに来て!!!! 早く来ないと鞭打ち50回するわよっ!!!!』


「みんな……飢饉で飢え、病で倒れたんですわ……あなたもそうでしょう?」


『何を言っているのよ!! だったら別の使用人を雇えばいいでしょっ、まったく、使えないのにすぐに倒れるばかりね。代わりなんていくらでも……』


 バチンッ!!


『!??????』


 どんどん激化する彼女にビンタをする。


「いい加減にしなさい。あなたの終わらない贅沢のせいで、どれだけの人が苦しい生活を過ごしてきたと思うの? 痩せた土地で食べ物を探すことがどれだけ重労働で、苦痛か……それなのに自分のことばかり。恥を知りなさい」


『ぐっ……わた、私を叩いたわね!? お母様にも叩かれたことないのよっ!!』


 襲い掛かろうとする彼女に今度は反対からもう一発頬を叩く。


 バチンッ!!!!!!!!


「あなたは、もうこの世の者ではありません」


 冷めた目で彼女を見る。


『はっ……ぐっ、うぅ……やっ、やっぱりね。あなた頭がおかしいのね。そんなわけないじゃない。私は貴族よ!? それにこんなに美しいのよ!? 歳だって……私に見合うレベルの相手がいないだけでまだ20代なんだからっ』


 浄化出来ないっ!? アレには押し除けただけで離れさせることが出来ましたのに。


 半世紀以上、この地にとどまっていたからなのか、その執着は想像以上に強い。


 でも……


 明らかにダメージはある。それに、心なしか距離をとっている気がしますわ。


 真っ黒だったモヤモヤとした影も、叩くたびに晴れているのが分かる。


「…………」


 スッ


 試しに両肩をつかむように抑え、揺さぶりをかける。



『ひいっ。やっ、やめなさい。何なのよっ!? 分かったから。分かってるから!! 止めてっ!! さっきから身体が宙を浮く感覚になって気味が悪いわ』


 彼女を覆っていた黒いモヤが振り落ちるようになくなると、敵対心もその分落ち着いた。


「あなたはもう、ずっと昔に亡くなっているんです。周りの者を巻き込んでどうしてこの地に留まるんですか?」


『……そうね。本当は分かっているわ。でもね、私まだ(ぎり)20代なのよっ!? それがつまらない病で亡くなるなんて。認めたくないでしょうっ!!』


「……他の方々まで巻き添えになったいるのは?」


『皆んな勝手に天国に行こうとしたから、止めたのよ。私の世話をする者も必要でしょう』


「…………」


『まっ、待ちなさい。もう祓おうとするのはやめてちょうだい。どうしてあなたが触れるのか知らないけど、強制的に意識が飛びそうになるわ』


「では、ご自分で逝ってくれますね?」


『〜〜はぁ。分かったわ。私がこの辺り一帯の者達を解放してそのあとは私もこの地を離れるわ』


「ずいぶんと素直に諦めてくださるんですね」


『……あなた、なかなか言うわね』


「?」


『ずいぶん長いこと意識が重かったのに、なぜか急に目が覚めた気分よ。またあんな状態になるなんて冗談じゃないわ。私は気高く美しい貴族令嬢よ?』


「……では、お願いします」


『……最期に、お願いがあるのだけど』


「なんですか?」


『その宝石……素敵ね。私にくれないかしら?』


 ルーシス様からドレスのプレゼントと一緒に贈られたネックレス。


 ルーシス様に確認してからがいいけれど、今ここで集中力を切らしたらまた会話できるようになるか分からないわ。


「…………分かったわ。これで成仏してくれるのね?」


『えぇ、必ず』



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