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28.君が大切

「あの、ルーシス様」


「ん?」


「場をわきまえない発言……申し訳ありませんでした」


 視えたアレをルーシス様が知るはずがない。もし、あの時感情のまま大神官様に怒りの言葉をぶつけていれば、ヴァロアナ家の名誉に傷をつけていたかもしれない。


 あの時、視えていた人達の感情が流れてきて、一瞬支配されたような気分でしたわ。


 関わってはいけない。


 改めて人ざるものの底知れない恐怖にゾッとする。


「……ミラが、謝る必要はない」


 そう言うルーシス様の表情は想像以上に穏やかだ。


「あの大神官は、いや大聖堂自体に問題は多い。母の遠縁という理由だけで放置していたが……いい刺激になっただろう。お前も、よくやった」


「ナオウッ」


 頭を撫でられ機嫌良さそうに返事をする。


「ブランク……あなたもどうしてここに?」


「こいつは脱走の才があるな。公爵様の塔からも抜け出したことといい、不思議な猫だ」


「ナァ」


 あまりにも間のいい返事に思わずこちらの頬まで緩む。


「ふふっ。あっ、すみません」


「だから謝らなくて良い。それより、大神殿に行っても何も分からなかったが、こんなことはやはりやめた方がいい」


「いいえ」


 アレの声が聞こえただけではなく、生きていた頃の背景が流れ込んできた。だが、それだけではない。


「?」


「大神殿に行って確認したかったことがあったんです。今日、確信しましたわ。大神殿にある浄化石は偽物ですわ」


「何っ!?」


「いくら大事の時にのみしか出さないようにしていたとしても、大神官様達が毎日祈りを捧げ、加護の力が強い大神殿が、あのようになんの効果も得られないのは変ですわ」


 大神官にまとわりつくおびただしいアレの数もそうだが、空気の質そのものが清さとは無縁だった。


「偽物、もしくは効果が切れてしまったのではないかと思うんです……」


 小さな浄化石の髪飾りをつけた時から、空気の流れが変わるのを肌で感じた。だからこそ、分かったのだ。


「それともう一つ、今回は失敗しましたが、生き霊でなくても、祓えるかもしれません」


「祓えるって……なぜそんな……」


「つい、あの時は感情にのまれてしまいましが、以前追い払った生き霊と同じ声が聞こえたんです」


「声?」


「今までと違った声が聞こえるようになったといいますか……感情にさえ飲み込まれなければ、説得できると思うんです」


 大抵は自我が失くなっており、会話にならない。だが、聞こえてくる声は今までと違う。魂の心からの訴えそのものだ。

 


「…………」


 アレらを一つずつ説得出来るのか、それに何の意味があるのか。未知の分野だけに、デメリットの方がでかい。困惑しているのがよく分かった。


「それは……君がする必要は……」


「守らせて下さいと、お伝えしましたでしょう?」


「そんなことしなくても」


「もう一ヶ所だけ、お願いします。そこに連れて行って必要ないと思うのでしたら、今後は今まで通り、見ることも、声を聞くことも、関わることもしませんわ」


「…………分かった。だが、髪飾りは持って行こう」


「分かりましたわ」


 

 念のため、干渉しないようにと屋敷に置いてきた。そして、髪飾りを取りに行くついでに、着替えもする。外出するたびに黒とは対照的なドレスが用意されるが、大神殿に行くからとなんとか控えめな格好をしていたが、今回は違う。


 不本意ですが、今回は華やかにしてもらった方がいいですわね。


「ンナー」


「ブランク、ちゃんとお留守番お願いしますわ」


「ミラ、用意は出来……これは……綺麗だ」


 ブランクを侍女達に渡していると、一度執務室へ出ていたルーシス様が戻ってきた。着替えたミラを見るなり、満足そうに見惚れる。


「ありがとうございます……」


 ひらひらのレースを贅沢に使い、花を髪に編み込む。髪飾りはあくまでもお守り代わりの為、今回は手元に置いておくだけだ。その代わりに、あちこちに宝石を散りばめたアクセサリーを見にまとう。


「それで……目的地を教えてくれるかな? 僕としては、このまま君をデートへ誘いたいところだが」


「ルーシス様もよくご存知の場所ですわ」











「それで……何を試したいか、想像出来るが一応聞こうか」


「はい。彼女と、いえ彼女達と話してきますわ」


「それは許可出来ないと言ったら聞いてくれるか?」


「……ここは、この土地は初めてルーシス様が連れてきて下さった場所ですわ。これも何かの縁です」


「だからって、わざわざ危険を侵す必要はないだろう」


「もし危ないと思った時はすぐにやめると約束しますわ。それに……」


 それに、時間が経つとともに難しくなるはずですわ。アレがまだ人の姿を保っているうちに、出来るだけのことをしなければ。


「それに、ここは美しさだけではなく、ヴァロアナ家の領地なのでしょう?」


 確かに美しい古城の地だが、それだけだった。かつて栄えていたこの地は、ほとんど資源も取れない枯れた地だと、家庭教師から聞かされていた。


「別にここが使えなくとも問題は……」


「どんな領地にも……住んでいる方がいますわ」


「っ。だが、それもわずかな……」


 景色だけは美しいこの土地も、枯渇した資源、不毛が続く田畑で出て行く者が多かった。


「思い入れがあって動けない人も、身体が不自由で動く選択肢すらない方もいます。それに、どんな地でも、失っていい理由にはなりませんわ」


「…………」


 ミラの家がどれほど苦しい生活を送っていたか、素性調査のためにと形式的に行った簡単な報告ですら想像を絶していた。


「……分かった。だが僕も立ち会おう。もし、少しでも君に異変があれば抱えて屋敷へ戻る」


「ありがとうございます」


 




いつもリアクションありがとうございます。更新の励みになっています。コメント、評価、非常に後押しになります!!是非とも宜しくお願いします。

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