26.はじめての好き
「えっ!?」
ヴァロアナ家の人間たるものそう簡単に心を読まれてはならない。彼女なりに頑張っているようだったが、こうやって素直な反応をする姿がより一層愛おしいと感じてしまう。
「傷つくなぁ。こんな格好をされてもそんなに無反応だと」
「こんな格好……」
上半身の衣は脱げ、引き締まった身体に手を置き、寄りかかるほど近い位置に座っている自分の状況に気づく。
「こっ!? これはっ!! そんなつもりはっ!!」
勢いよく立ち上がると、つい裾を踏みそのまま後ろへとバランスを崩す。
「あっ、きゃっ」
「大丈夫?」
そのまま引き寄せられ、そっとソファに座り直す。
「ありがとうございます……」
「出会った頃を思い出すな」
「〜〜っ!! 本当にっ、重ね重ね申し訳ありませんわ」
「なぜ謝るんだ?」
「えっ……」
「公爵様がミラの能力を見込んで婚約者になったことは承知している。ヴァロアナ家のしきたりだからね。だから、僕も誰が伴侶になろうと義務をこなすだけだと受け入れていた」
その言葉に、マリアご令嬢の言っていた大勢の婚約者候補の話を思い出す。
この能力がなければ、あの人が選ばれていたのかもしれないのに。私ったら、こんな大事なことを隠そうとするなんて。思い上がりもいいとこですわ。
「すみませ……」
「ミラ。それでも僕は君が婚約者となることを望んでいる。初めて、この家のしきたりに感謝したくらいだ」
「どうして……」
どうしてそんな言葉をかけるのですか。まるで、本当に愛されていると寄りかかりたくなってしまうじゃないですか。
目の前の彼の言葉を信じたいと欲が出る。少なくとも、ルーシス様はずっと変わらないことを伝えてくれている。貴族の建前だ、ヴァロアナ家の人心術なんて知らなければ、すぐにでも自分の気持ちを伝えたいと溺れてしまいそうだ。
「信じてくれないか?」
でも、私の気持ちはもうとっくに決まってましたわ。
「ルーシス様、私も……お慕いしております」
「っ!?」
ミラが好意を口にしたのは、初めてだった。
「私の話、聞いてくださいますか?」
「いや、待ってくれ。もう少し余韻を……はぁ。本当はこのまま抱きしめたいところだが……また今度にしよう……それで? やっぱり、何か隠してたのか」
「すみません。核心がなかったので、もう少し様子見をしようと思っておりましたが……今日、私アレを祓えたようです」
「アレ?」
「はい。アレです」
馬車での出来事を思い出す。虫をはらったと言っていたが、違和感はあった。虫がいたのなら、自分が先に気づくはずだと思ったが、彼女のドレス姿に魅入ってしまったかと軽く流していたが……
あの時はらったのは虫ではなかった? そして、ミラが言うアレとは即ち、アレしかない。
「えっ!!?? ちょっ、ちょっと待て。だって君は視えるだけだと言っていたはずだが……」
「その、おそらくですが。あの髪飾りのおかげかもしれません」
「そんな……魔除けのためにと用意したっていうのに」
「でも、もし本当に祓えるようになったなら、良かったのでは!!」
「ダメだ」
「はい?」
ルーシス様は今まで、他の誰にも言わないようにと言うことはあっても、こんなに冷たく否定したことはなかった。
「祓えるか確認する必要はないし、この屋敷から出なくてもいい」
「えっ、ですが……」
「…………君を失いたくない」
冷たい声ではなくなったが、悲痛な声で絞り出すように言われる。
「ルーシス様?」
「いやっ、なんでもない。危ないことに関わってほしくないんだ。分かってくれるか?」
「…………嫌ですわ」
「えっ」
今度はルーシス様が驚く側となる。
「今日、ルーシス様の肩に生き霊がかじりついていましたの」
「肩?」
それがマリアご令嬢とは言えないが、ここで引いたらダメな気がしたのだ。
「それはもう、離れまいと凄まじい形相でしたわ」
「それは……放っておけば、屋敷に入ればとれるだろう」
「私が嫌ですわ」
「嫌って……」
「誰であろうと、ルーシス様には触れてほしくありません」
「っ!?」
ルーシス様の手を握りしめる。
「あなた様を守りますと、誓いましたでしょう?」
「しかし、今まで相手にもしてなかったアレを急に祓えると言われてもな……」
「もちろん、私もまだよく分かっていませんわ。もしかしたら、偶然かもしれませんし……ですから、また神殿に行きたいのですが、ダメでしょうか?」




