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24.嫌がらせ

 最後まで、優雅に振る舞いながら、次回の約束をとりつけマリア令嬢は帰っていった。


 つっ、疲れましたわ……アレには慣れているつもりでしたが、同じ顔でこうも正反対のリアクションは初めての経験でしたわ。


「ふぅ」


「大丈夫?」


 あまりレディ同士の話に入り込むのはミラ自身の名誉を傷つけてしまう為、途中からは一歩ひかざるを得ない状況だった。


「あ……問題ありませんわ」


 どこであろうと、ヴァロアナ家の一員として、誰が聞いているか分からないと常に意識すべきだと、耳にタコが出来るほど学んできた。


 まだ誰が近くにいるか分からない状況ですのに、ため息なんて……マリアご令嬢のように、常に微笑んでいなければなりませんのに。


 思わず青くなる。それを察してか、ルーシス様は少し困ったように笑い、近くに誰もいないと証明するかのように、恐れ多い発言を口にする。


「今日はもう帰ろう……その手も、早く消毒した方がいいだろうからな」


 殿下に握られ祝福の挨拶をと口づけをされ、マリア公爵令嬢には親愛を表するためにつながれた左手をとると、まるで2人の記憶を上書きするようにキスをした。


「あっ、あのっ……」


 下手をすれば殿下の挨拶を不浄扱いし、公爵令嬢を侮辱したと捉えられかねない言動だ。


「ほら、誰もいないだろう? それに、小さなため息1つに気をつかう必要はない」


 一瞬のスキも見せてはならない。


 そう何度も授業で言われましたし、実際、ルーシス様自身、屋敷の中ですら常に気を張っていらっしゃるわ。王家の敷地内でまさかそんなことを言うなんて……私のために?


 不覚にも、嬉しいと思ってしまった。









 ルーシス様のエスコートで会場に戻る時には、来た時とは異なり、あからさまな視線はなかった。これ以上ヴァロアナ家に目をつけられたくないのが態度に出ているのだろう。何より、王室の護衛が馬車までの帰り道を誰にも邪魔されないよう配置されていた。



「ヒトル殿下のご配慮に感謝致します」


「そう思ってもらえて光栄だよ。君もたまには他の皆と交流する機会も必要だろうと思ったが、レディが疲れたら大変だからね。是非今度は2人で来るといい。自慢の庭園も、ゆっくりと観れなかっただろうからね」


「では、失礼いたします」


 ヒトル殿下へ別れの挨拶を済ませる。護衛の配置指示に感謝を伝えるが、内心穏やかではない。


 初めからそうしなかったのは、今までの誘いを断っていた腹いせだろうな。などと考えていそうだが、さすがに大勢がいる場では分をわきまえる。



「ミラ」


「はい?」


「抱きしめても構わないか?」


「はいっ!?」


「……では遠慮なく」


 馬車に乗るなりそう聞くと、顔を隠すために持っていた扇子を手から取り、そのまま抱きしめられる。


「??????」


「……もし、嫌な思いをしたのならもう2度と参加しなくて良いから……」


「……嫌な思いですか?」


「ああいう場では、ただでさえ探り合いやかけ引きが避けられない。もし不快なことがあったのなら……」


 ルーシス様は、アレが視えなくてもずっと分かっていらっしゃるのね。


 無関心に振る舞わなければ、いくらでもすり寄ってくるであろう貴族たち。自分の利益ばかり考え、欲望とは別の顔をするのが当たり前の世界。


 ですが……


「大丈夫ですわ。この、髪飾りも役に立ちましたし、それに、私のことを紹介して頂けて嬉しかったですわ」


 マリア令嬢が言っていた婚約者候補という言葉だけが胸につかえていた。


 それでも、抱きしめられた温かさで、先ほどまでのモヤモヤが嘘のように落ち着いていくのが分かる。


「そういえば……」


「どうしたっ!? 怖いものでも……」


 慌てるルーシス様に、殿下から視えた守護獣のような話をする。


「……そうか。ライオンは王家の紋章だ…………僕が支持をしなくても、ヒトル殿下が次の王位になるのかもしれないな」


「ですが……」


 ヒトル殿下は第二王位継承者と言っていたのを思い出す。彼が王位を継ぐには、ヴァロアナ家が全面的に支持しても難しい。第一継承権を持つ皇太子が現王に溺愛されており、本人も政権活動には熱心と噂高いからだ。


 その状況で、もしヒトル殿下が王位を継ぐとすれば、第一皇太子に不吉なことを示し、彼につく貴族達の地位も揺らぐことになる。


「……ミラ、今日視たことも、これから視ることも、君が助けて欲しいことなら僕は全力で対応すると誓おう。だけど、その力を家のために使おうとしなくていい」


 何度もルーシス様が言うこのセリフ。本当なのだとは分かるが、その度に公爵様からの言葉も思い出してしまう。


 今も、会場からついてきたマリアご令嬢のアレが肩に必死にしごみついているなんて、思ってもいないでしょうね。


 いつもは関わらないを通すが、なぜかソレが彼女だと分かると無性に嫌な気持ちになる。


 無駄だと分かってても、押すようにソレをどかそうと手が動く。


『ギャアアアアッ』


「っ!?」



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