20.ヴァロアナ家の秘密
「正確には、ブランクが、兄弟猫達の危機を共有してきたと言うべきでしょうか」
「……この屋敷では君の力は抑えられていると思っていたが……いやでも、実際ブランクの色が白く視えているわけだし……ということは、こいつを処分すればミラを煩わせるものが失くなる?」
「ルーシス様!?」
「アオンッ!!!!」
「いやっ……冗談だ」
ルーシス様の目は笑っていなかっただけに、ブランクを慌てて抱えなおす。
「いや、本当に……言葉のあやだ……本気でそんなこと思っていないから、変に距離をとるのをやめてもらえないだろうか?」
「本当ですか?」
「ナアウッ?」
「こほん。本当に思っていない。色々と考えすぎてしまったようだ。ミラが……この数ヶ月頑張ってくれている間、僕なりに調べてみたんだが、神託や呪術という意味でなら神官が専門家になる。実際、今までの伴侶候補には神殿の家系から選ばれることが多かった。僕の……母のようにね。だけど、大神官ですらあの様子だっただろう? ヴァロアナ家がここまで特別な力というものに強く執着しているのも、単に呪術対策や縁起担ぎではないと思っている」
「それは……」
公爵様を助けた日に視た黒ヒョウや神殿よりも効果がある浄化石の存在、伴侶に特別な力をとこだわる結婚への条件、そして、何より普通の猫とは異なる点の多い飼い猫。
心当たりが多すぎますわ。
「ヴァロアナ家では、公爵の爵位を継ぐ時に全てを引き継ぐとされている。あの塔一帯が立ち入り禁止なのも、何か隠してのことだろう」
「ルーシス様も、浄化石の存在や、伴侶の条件はご存知でしたわね?」
「あぁ。次期公爵として、公爵様に指名されてから聞かされたことだ。まぁ、勝手に恋愛結婚だと言わせない為の先手だと思っていたけど、まさか本当にそんな力があったなんて、正直僕も驚いたよ」
そういえば、黒服の目眩しの縁起を悪目立ちとおっしゃってましたわ。
「浄化石のことも、警備を考慮する上で今後必要になるからと教えられた程度で、むしろもっと隠したい秘密があるとすら思っていた」
この様子だと、当然ブランクやグレイ、グロウ達の親猫のことも、無関心だったに違いない。
「あの」
「ん、何?」
「この子達の母猫はどうしているんですか?」
「あぁ、産んですぐに姿をくらませたらしい」
「えっ??」
「次の猫が産まれるといつの間にかいなくなる。もちろん、残されたもう片方の猫は十分なお礼とともに元の家に帰すまでが言い伝えのとおりだ」
「それでは、まだ乳離れしていないといったあの時の公爵様のお言葉は……」
「間違いなく出まかせだ。この3匹は産まれてすぐに使用人たちが育てている。そして、次の跡継ぎが決まれば他の兄弟猫には情けをかける必要はないだろうな」
なんとなくそんな気はしておりましたが、まさか母猫自体行方知らずだったなんて。それなら、私が選んだブランクを除く他の兄弟猫はどうやってここまで生きてこられたのかしら。
「……この子達はどうやって……」
痩せ細り、成長が止まったように小さい兄弟達をみる。
「おそらく、ブランクじゃないか?」
「え?」
ブランクはぶるぶると身体を震わせると、ミラの膝から降り、グレイとグロウの毛づくろいをする。
「こいつも自由に動き回るのは難しかっただろうが、使用人達の隙を見て他の兄弟たちに餌を運んでいたのだろうな」
「まぁ……」
ふいに弟のヨコラを思い出す。年の離れた小さな可愛い弟……ブランクの気持ちが嫌でも分かる。
「あ、え!? 泣いて!!?? どうしっ??? また何か視えるのか!?」
「いえ。こんな力でも、役に立ったのなら良かったですわ」
「……公爵様も、助けてくれただろう?」
ルーシス様はゆっくり手を伸ばすと、なでるように頭に触れる。
「あんな非情な方でも、僕のお祖父様だ。助けてくれたこと、感謝する」
あれでも昔は可愛らしかった時もあったと、ぼやく公爵様を思い出す。
思っているよりも、2人の関係性はそんなに悪くないのかもしれませんわね。
「それにしても、どうしてそこまで調べようとしてくださったのですか?」
「もちろん、ミラがその力で怖い目にあっているのなら、なんとかしてやりたいと思うものだろう?」
「ええと……それは、私の為に……」
「それに、僕自身の為でもある」
「ルーシス様の?」
「父は……僕が幼い頃に母と事故にあったと聞いているだけだ。暗殺や誘拐、襲撃なら分かるが、ただの事故など、そんなあいまいな表現、どうにも納得いくものではない」
「えっ、えぇ? 幼いルーシス様に分かりやすく説明をされたのでは?」
「今だにその一言だけというのが、公爵様らしくない」
「なるほど?」
「とにかく、公爵の位を譲られるまで待つなんて悠長なことは出来ない」
「直接聞かれてはいかがですか?」
「…………さぁ、それよりも、王室の招待には婚約者として出席するのだから、その対策も打っておこうか」
「え? あの?」
「もう外部講師の授業は十分だろう? ヴァロアナ家のことも、婚約者としての作法も、ここからは僕が手ほどきしよう」




