19.甘い尋問
食後の紅茶をそっと置く。わざわざ隣の席に座ると、これでもかとまぶしく微笑む。
「〜〜〜っ」
「分かった?」
「はい……」
「良かった」
「……あの」
「ん?」
「……手はいつ離すのですか?」
いつのまにか手を握られている。深い意味はないのだろうが、こちらが余計に意識してしまうではないか。
「あぁ、その。離しがたくて」
「〜〜〜っ!!」
「アオゥッ」
こちらもいつのまにか膝の上に乗っていた。近づいていたルーシス様が少しため息をつくと、そっと手を離す。
「もちろん、正式に婚姻関係を結ぶまでは自重するつもりだ」
「じ、じちょう?」
「兄弟猫を助けた恩人に、ずいぶんと邪魔してくれるなぁ」
意地悪な笑みを浮かべると、猫を膝から引き離す。痩せた兄弟猫と本当に同い年なのだろうか、ルーシス様に持ち上げられた全身は、かなり大きく見える。
「ふふっ、ルーシス様も猫がお好きなんですね」
「……ミラの膝に乗るのはたとえ猫でも許せないからな」
「ふふふ……猫様も可愛らしいですが、3匹いますのでやっぱり名前は必要ですわ。この子は……ブランクという名前はいかがでしょうか?」
「ブランク? あぁ、あいまいという意味か。確かに、お前にピッタリだな」
「ンァォ」
反応を見るからに、どちらでも良いという感じだ。
「他の兄弟猫は、グロウとグレイはいかがでしょう?」
「異国の言葉を使ったのか、黒と灰色の意味だな。もう、他国の言葉まで習っているのか?」
「少しですけど……」
「見違えたよ。しばらくぶりだけど、食事の作法もドレスの歩き方も……そばにいてくれるだけでいいと言っておきながら、苦労をかけてはいないか?」
「そんなことありませんわ。ルーシス様のおそばに立つとお約束しましたもの。それに、とても充実してますわ」
「ミラ……君は本当に……素敵だな」
「えっ、すっ!?」
「他の男どもに見られると思うと妬けてしまうな。王室からの招待だけなら断りようもあるが……」
髪を触りながら、どこかルーシス様の目は諦めきれていない。
「ルーシス様、それは……」
「分かっている。ちゃんと行くつもりだ」
しばらくは公爵様を刺激しないにこしたことはない。
あまりにもじっと見つめられ、慌てて話題を変えてみる。
「そっ、そういえば、どうして私が塔に近づいたと分かったんですか?」
「あぁ、それは……ミラに何かあればすぐに知らせが来るようにしているから当然だろう? この数ヶ月、ただでさえまともに会えてなかったっていうのに……久しぶりに生きた心地がしなかったよ」
「それは、すみません……あの騎士の方はルーシス様とお知り合いだったのですか?」
当然、2人で計画した話ではなかった。それなのに、門番の騎士はルーシス様の配下の者で、あの場をやり過ごせたのも全てあの騎士がいたからこそだ。
「あぁ、彼は君がチャンスをやるようにと言った騎士だ」
「あの時の……? えっ、あの時の騎士様ですか!?」
まさか、ルーシス様と出会った日に処分を言い渡されたあの騎士様ですか!?
隙をついてとはいえ、屈強な騎士を片手で抑えるほどの実力者だ。まさか、ルーシス様が本当にチャンスを与えていたとは、驚きだった。
「君に2度も怒られただろう? ほら、使用人を労われと……ヴァロアナ家の騎士にチャンスなど甘えは不要だと思っていたが、公爵様の隊に潜入し、浄化石のある塔を調べる任務をさせてみたら、こんなところで役に立つとはな。公爵様には僕の傘下だとバレてしまったが、十分な役割をしたから本日付けでまた騎士として復帰することを許可したところだ」
公爵様にそのことがバレてしまったらそれこそその場で処分だったのではと、ルーシス様の思いやるという基準が心配になるところだ。
それでも、私の意見を聞いてくださったんだわ。
思わず胸が熱くなる。
「それで、どうしてあんな危険なマネを?」
あれ? なんだか怒ってらっしゃる?
甘い笑みを浮かべたまま、撫でていたはずの手は、いつのまにかそのまま両腕を軽くつかみ、至近距離で問いかけをしてくる。そっとつかまれているはずなのに、あまりの近さに身体が動かない。少しでも動けば、ルーシス様のお顔に触れてしまいそうな距離感だ。自然と答えるまで逃げ場がない状態となってしまった。
「いえ、あの……」
「あの塔には入れないって前に伝えたはずだが?」
「無意識にたどり着いたと言いますか……」
「高い塀を飛び越えたと聞いているが?」
「夢中でしたので、つい……」
「……ここが、嫌になったのか?」
「はい?」
近かったお顔は離れ、腕はようやく自由になる。だが、ルーシス様の表情はどことなく暗い。
「報告では……まるで静止が効かず、外に出る勢いだったと」
「そっ、それは誤解です。この子達に……呼ばれたからです」
「呼ばれた?」
「正確には、おそらく、あなたよね?」
「アオン」
ずんぐり体型を抱っこし、ルーシス様の前にぶら下げる。




