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18.社交界デビューは、王室ですか?

「え、おじいさ……ま??」


 さすがに言いすぎてしまっただろうか。ルーシス様も思わずギョッとした表情だ。


「良かろう」


「はいっ!?」


 この流れで返ってきた返事に、ずっと冷静だったルーシス様が思わず驚いた声を出す。



「ごほんっ、孫娘たちの初めてのおねだりともなれば、聞いてやらんわけにもいかん。まんまと2人の作戦に私自らこの場に引き出された上に、警備の見直しまで指摘できるようになったとあれば、お前の言い分も重みが増す。猫の管理は希望通り任せよう」


「ありがとうございます。それと、今回僕の指示のもと働いたことですので、使用人達への処遇に関しても全員不問として頂きたいと思います」


「何? お前の指揮下にいる者だけでなく、全員だと?」


 さすがにこの要求には全員が驚いた顔をする。


 ルーシス様……ですわよね?


 つい最近まで、使用人達のことを人として見ようとも、思いやるということすら理解できなかったとは思えない発言だ。


「私の使用人への処遇に口を出すつもりか? 不意打ちとは言え、塔への侵入を許した責任を不問とすると?」


 その声に、押さえつけられた門番の騎士は真っ青になる。


「我々ヴァロアナ家の隊の規律のあり方に問題があったと申した通りです。上に立つ者が己の非を下に押し付けることはいかがなものかと」


「…………今回限りだ。では今後、お前が隊を総括してみろ。それで不備が出れば、隊員全員相応の処分を受けてもらう」


「ご期待に応えてみせます」



 本当に公爵様が納得しているかは分からない。だが、少なくとも全員の切捨て処分を回避し、猫達を守ることに成功したことにホッとする。


「寛大な対応ありがとうございます」


 ドレスの裾をつかみ、覚えたての最大限の敬意を表すおじぎをする。


「あぁ、それと。ヴァロアナ家の婚約を聞いてか、王室から招待状が来た。2人とも出席するように」


「お、王室……??」


 まだ、どこのお呼ばれに最初に(おもむ)くか、慎重に選んでいたというのに……


 社、社交界デビューが王室っですかっ!?













「心配ないよ。むしろ、王室のセキュリティなら身の安全を余計に考えないで済む。僕の隣にいてくれれば誰かと話すこともないだろうし、王も満足してくれるだろうから」


「ミニャー」

「ミャー」

「アォウ」


 ルーシス様と食事の時間を再開することにした。聞きたいことが多すぎる上に、最近は屋敷で見かけること自体減り、せっかく近い部屋だというのに、夜はすぐに寝ついてしまって会うことすら久しぶりだ。


 実は、ルーシス様にお会いして、なんだか離れがたくなったなんて……絶対に言えませんわ。


 3匹にミルクを与えると、まだ身体が小さい2匹はお皿がひっくり返る勢いで飲み、おかわりをしてようやく満足そうにくつろいでいた。ルーシス様の言葉に同調するように可愛く鳴くが、なぜかミラにだけ白く視えるこの猫だけは、呆れたように鳴いているのではと思えてしまう。



 いやいやいや、考えすぎですわ。きっと気持ちがナーバスになってしまってそう思ってしまうだけですわ。


「…………」


「そういえば、まだこの子は白く視える?」


「えっ、はい……そうですね。むしろ前よりも純度が高くなったような。不思議な感覚ですわ」


「そうか……僕にはやっぱりこの小さいのと同じような色にしか見えないな」


 そう言うと、お腹を膨らませて眠る黒チビを指でつつく。


「ミニャ……」


 っ!!!!!!! 可愛いですわ。それに、ルーシス様がつっ、つついていらっしゃるわ!!!!


 


「うーーん、名前がないと不便だな」


「名前がないのですか?」


「まぁ、今までも世話は基本侍女達がしていたし、ヴァロアナ家の飼い猫に勝手に名前をつける者がいるわけないだろう?」


「そうですわね」


 騎士達の私的な会話を禁止するくらい厳粛なこの屋敷で、誰もそんな恐れ多いことするはずありませんわね。


「それだと、名前なしでどうやって呼んでたんですか?」


「え……前のは皆猫様とか?」


「猫様????」


「そもそも、ヴァロアナ家の猫は特別というか……20年以上長生きするとか、子猫を産むのは家にとって大きな変化がくる前兆とされてるんだ」


「あの話は本当でしたの? それなら、この子達の親は……」


(つがい)は発情行動を示した時に他の貴族から厳選な審査で選ぶ。それこそ、僕の見合い写真に負けないくらい毎年勝手に送られてくるからね……あっ」


「お見合い、ですか……」


 当たり前のことだとはいえ、ルーシス様にも出会いがあったのだろうと勝手に落ち込んでしまう。


「僕は全く興味なんてないから!! そもそも選択肢なんてないものだ。まずは公爵様が時期と相手を選ぶことになって……いや、そうじゃなくてっ!!」


 私も、ルーシス様が選んでくれたわけではない。そもそも、本来候補にすらならない身分差なのだからと余計にその事実が重くのしかかる。


 唯一、アレが視えるからとたまたま選ばれただけ。それを忘れてはいけませんわ。ルーシス様はこんな力は要らないと言ってくれますが、貴族は本音と建前を使い分けるって、授業で何度も聞いているのに、私ったらつい建前に甘えてしまっていましたわ……


「違うから」


「え?」


「ミラとは本当に一緒にいたいと思ったって、言っただろう?」



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