17.……前へ
「意味とは、そのままだが?」
時折り感じる、話し方や視線の癖。だけど、ルーシス様に似ているようで全く似ていない笑い方をする。
「大切な……ヴァロアナ家で飼っている猫だと……」
「そうだが?」
不要な猫だと、確かに言っていた。
どういうこと?? ヴァロアナ家の由緒ある子達だというのに。
公爵様にとって、大切な、の中に痩せ細った残り2匹が含まれてはいなかった。
まさか、私が白く視えたと選んだ子だけがヴァロアナ家の猫として認められたってことかしら。
「君は実に努力していると聞いている。自らレッスンを増やし、その吸収スピードも素晴らしいとか。こちらとしては能力以外は二の次と考えていたが、実に良い」
「…………」
「きっと君がここに来てしまったのは、全て至らない者たちのせいなのだろう。心配ない。不能は切り捨て、明日には新しい使用人と総入れ替えしておこう」
切り捨てという言葉が、本来の意味ではない、言葉どおりの意味ならば、解雇だけで済まない。侍女は崩れ落ち、嗚咽を出す。騎士達ですら、下を見て俯いている様子からも、そのままの言葉だと分かる。
「〜〜っ、やっ」
「っ、お話のところすみません。公爵様っ、1つ宜しいでしょうか」
「ルーシス様!!」
いつのまにか駆けつけてくれたのか、ルーシス様が騎士達とともに立っている。
「……なんだ?」
「今回の件については、2人のあるお願いがあっての行動です」
「それで?」
一見、変わっていない口調だが、公爵様の先ほどまであった口元だけの笑顔が消えている。立ち入り禁止の塔に、ルーシス様まで入ってきたことが不満なのが見て分かる。
「実は、その大切なヴァロアナ家の猫達を、どうしてもミラが面倒見たいと切望しておりまして」
猫達、と協調してくれる。
「あ……」
ルーシス様が優しくこちらに視線を向けたのが分かる。
「僕も婚約者を迎え入れ、ヴァロアナ家次期当主として戦略の1つも立てられるようにならなければなりません」
「つまり、なんだ?」
完全に公爵様の声色が変わるのが分かる。まさに今、公爵の爵位をかけた宣戦布告を受けるかのような勢いだ。
「ですから、公爵様が常々立ち入りを禁じていたこちらの塔に僕たち2人が入ることに成功出来れば、大切な猫達の世話をする権利を譲ってもらえないかと、おねだりする計画を立てさせて頂きました」
「おねだり、だと?」
公爵様は、一瞬言葉を飲み込むように繰り返したあと、探るようにこちらを見る。
言ってることはかなり無理があるが、ルーシス様がこの状況を見ただけでとっさに機転を利かせてくれたのだ。何がなんでも、話を合わせなくては。
「えぇ、その……この子達に会わせてくださった日、私にお譲りしてくださるとおっしゃいましたでしょう? 私、本当に嬉しくて……もちろん、猫達の世話を直接貴族がするなど前代未聞だと今なら分かりますわ。ですが、どうしてもこの子達のことが頭から離れず……」
……これで、どうでしょうか?
ちらりとルーシス様を見る。落ち着いた顔色から、この返しが正しいと安堵する。
通常、飼い猫の世話は使用人がする。あくまでも飼い猫の血統や美しさ、その希少さをステータスとすることが貴人のあるべき姿。
それをお世話したいなど、公爵家としてあってはならない願い。
「自分たちが何を言っているか分かっているのか? 聞き入れてもらう為に、考えなしに強行突破して入ったことが成功だと?」
しかし、公爵様の反応はかなり悪い。
どうしましょう。これは、明らかに怒ってらっしゃいますわ。
だが、ルーシス様は余裕の表情のままだ。
「公爵様、考えなしに強行突破出来るほど、この屋敷のセキュリティは軽いのですか?」
「……なんだと?」
「今からきちんと説明致します……前へ」
ルーシス様の言葉に、1人の騎士が前へと出る。
「あっ、あなたは」
思わず声が出るが、小声だったのでどうやら公爵様には気づかれていないようだ。
前へ出たその騎士は、ここに入ることを手伝ってくれた門番だ。もう1人の騎士をあっという間に抑え、鍵を開けてくれた恩人だ。
「実は、もう数ヶ月も前から僕の騎士を公爵様の騎士隊に潜入させておりました」
「…………」
「不要な会話を禁じている故、大勢いる隊の顔を全員が認識しきれていないという弱点に気づいたんです。我が家は侵入には相当な困難を要しますが、一度でも屋敷に入ってしまえば、こんなにも簡単に潜入出来るようですね」
「……ふむ」
公爵様の反応が変わったのが分かる。
「僕たちがここへ入れるよう、何ヶ月もかけ門番に僕の騎士を配置する。そのおかげで今日この場に入れた。この点から、新たに警備の仕方および騎士隊員達の環境を見直す必要があるかと」
あまりにも想定外の流れに、ルーシス様がその場をやり過ごす為の言い訳ではなかったと驚く。
すっ、すごいですわ。でも、どうして……
それでも、公爵様が自ら決定したことを考え直してくれるか分からない。眉をひそめ、どう返事があるのか、緊張が走る。
「……うぅむ」
私に、何か出来ることは……
そもそもこうなったのは私の考えなしの行動のせいですもの。
ルーシス様ほど、機転を効かせて振る舞いなど出来ない。
「どうか、お許し頂けませんか……お、おじいさま」




