14.何もしないわけにはいきません
あのあとも、なかなか笑いが止まらず、ルーシス様は頬の筋肉が痛いとおさえていた。
「…………」
「っっっっっ」
「おかえりなさいま……ルーシス様どこか体調でも優れないのですかっ!?」
出迎えの使用人たちが肩をふるわせる主人に慌ててかけよる。
「いや、なんでもない。鍛えていない筋肉があると分かっただけだ」
「????」
「ヴァロアナ家の居心地はどうかな?」
部屋に戻ってからも、着替えが終わるのをずっと待っていたのか、侍女達を急かすように部屋から出す。
「えぇ。とても快適ですわ」
実際、屋敷に来てからアレは見ていない。
「そうか」
よほどその答えが気に入ったのか、明らかに機嫌がいい。
よく分かりませんが、今のところ平穏な日々が送れていることに間違いありませんもの。実家では小物程度でしたけど、出入りする数少ない商人の方や山中で見かける時アレはやはり気分のいいモノではなかったもの。
これが普通の人の世界。それがここで送れていることに不満なんてない。過密スケジュールではあるが、学ぶことはむしろ楽しいとすら思えるようになっている。
それに、ルーシス様は私の問題に向き合ってくれた方ですわ。
「今日は、ありがとうございました」
「そんな改めなくても」
大げさだと言わんばかりに笑っているが、本気の言葉だ。
ドレスを用意してくれたこと、アレが視えることを信じてくれたこと、気味悪がらないでいてくれたこと、神殿に連れて行ってくれたこと、そのままで良いと受け入れてくれたこと……言葉にしようとするとキリがない。
「いいえ、本当に、嬉しかったですわ」
「そうか。それなら良かった」
「はい」
「浄化石に効果があるかは断定できなかったが、少なくともその石がある空間に限っては視ていないことも事実だ。石のある部屋には、僕でも近づけないからな」
「そういえば、この屋敷は騎士様が常に警備されてますわね」
「まぁ、生きた人間は色々企むから……ヴァロアナ家がここまで強く栄えているのはその警戒心と、守護のおかげと言われているからね」
「ルーシス様は、以前からも信じておられたんですか? そういう類に関して……」
出会ってすぐ、人ざるものが視えると言い当てられた。それは、少なくともその存在を信じているからだと思う。だが、神殿に対して冷めた目で興味ないと言い切ったのも事実だ。
「あぁ、うーーん。困ったな……僕は、幼い頃からあらゆる分野の教えを受けていて……両親が生きていた頃は守護獣が我が家を護ってくれていると信じてたよ。でも、今は……」
そこから少し困った顔で、こちらを見る。そっと頭をなでてくると、いつもの優しいルーシス様の顔つきに戻る。
「ミラがヒョウの彫刻を白い言った時、自然とそう思えたんだ。公爵様や両親が話していた視えない存在があることをね。まさか、それ以上のものが視えているとは驚いたけど……ミラが嘘をついていないことは分かる」
「……どうして」
「ん?」
「どうして私をそんなに信じてくださるのですか?」
「…………惚れた弱みかな」
「えっ??」
「一目惚れするなんて、自分でも驚いてる」
「〜〜〜〜っ!!??」
顔を真っ赤にするルーシス様に、こちらまで熱くなる。
「君がっ、僕にぶつかってきた時、避けようと後ろへ倒れそうになっただろう? 他の令嬢はこれ見よがしにわざと転んだりして媚びを売ろうとするのに、あんなに必死に身を交わされたのは初めてだ」
「っ!!??」
「それと、騎士たちを身を呈してかばっただろう? あの時の君は……とても輝いていた」
「っっっ!!!???」
「でも、こんな呪われた一族に巻き込みたくないとも思ったんだ。だから、公爵様に気づかれないよう使用人達にあの夜のことは全て伏せさせていたんだけど、まさか子猫の色まで違って視えるなんて」
「!!!!!?????」
「家に帰してあげれなくて悔しかったが……それ以上に、ミラが残ってくれたことを喜んでしまっているなんてな。でも、君がここが快適と言ってくれるなら本当に良かった」
「あの……」
「ミラが好きだ」
「っ!?」
「ヴァロアナ家のいざこざに巻き込みたくないが、正式に婚約を取り交わしてしまった今、僕は全力で君を守る」
「あっ、ありがとうございます?」
「だから、公爵様の言っていたことは気にしなくていい。不愉快なものを視る必要はない」
「それは……」
この屋敷にいる限りそれが叶うのかもしれない。でも……
「私も……私もルーシス様を守りたいですわ」
「えっ」
「ルーシス様の婚約者として隣に立つには、まだ力不足ですわ。誰にも文句を言われないくらい頑張りますから、その時は、私にもルーシス様を守らせてください」




