13.神殿よりも、我が屋敷
「ひぃっっっっ!!??」
あまりの衝撃に、大神官だけでなく、警備のためにと控えていた他の神官らも悲鳴をあげる。
「うん、宝石とは違うかな。ほら」
ほらっ!? この状況で私に渡しますか!?
受け取らなければ落としてしまいそうな勢いに、思わず両手で受け止める。
「…………」
「あああああぁぁぁぁっ!!!! どっ、どうかそのまま、落とさずこちらにっ!!!! 心して、取り扱いには十分おお気をつけてっ!!!!」
「えっ、えぇ」
ルーシス様の手から離れたからか、ものすごい形相で大神官が迫る。そっと元の箱に戻すと、全員が息をするのを思い出したようにへたり込む。
「ルーシス様っ!! これは冗談で済まされることではございませんっ!!!! 国王ですら自由に扱えない代物なのですぞっ!?」
「冗談ではない」
「へ?」
「次期公爵として、浄化石のことくらい理解しておかねばならないだろう?」
「それは……」
王族に対抗できる唯一の貴族、ヴァロアナ家だからこそ許される発言だ。下手に否定すれば王家との対立を引き起こした立場になりかねない。
「今日は薬湯をもらいにきただけだ、それ以上のことはなかった。それで良いか?」
「はいっ、はい、もちろんでございます。ではすぐに疲れに効く薬湯を持って来させますので」
大神官の言葉で、周りが急いで動く。ヴァロアナ家が何もなかったと言う以上、それに乗っかった方が神殿としても助かるのだろう。
「ふぅ。ご、ご様態はいかがでしょうか……」
大神官もさすがに疲労いっぱいの様子だ。
「あぁ、そういえば」
「ひぃっ、いや、コホン、どうされましたか?」
「例えば、呪術にも効果はあるのか?」
「……それは、どういう」
「分かるだろう? なにぶん、あらゆる手を使ってこの座を狙うものは多い」
ルーシス様は、そう言いながらそっと婚約者を引き寄せる。
「あぁ、確かに……色々とご心配でしょう。そうですね、浄化石自体に清めの力があると言われてますから、呪術に対しては大抵は効果があるでしょうが……」
「どうした?」
「人間の邪そのものは複雑でございます。特に、執着心というものは。術には効果はあるでしょうが、その根源そのものにはどうにも。人の悪意というものは時に術を使わずとも害となる時もありますから。その為に、我々が日々祈り、そういった類から影響を受けないよう神からご加護を受け賜るのです」
「つまり、もし怨霊がいてもそれは対処出来ないと?」
「霊ですか? ハハハ、そんなものになるのは信仰心のない愚かなものたちです。高貴な方にはご縁のないものですのでご安心を。きっと神が護ってくださります」
「……分かった。そろそろ失礼する」
「おや、そうですか」
あからさまにホッとしたような顔をするが、最初に会った時に見た複数のアレらはもう視えない。
やっぱり石の力なのかしら、でもそもそも視える視えないにはムラがあるものだし。うーーん、でも、霊になるならないに身分が関係あるっていうのは……
ここに来る前に見た元貴族であるお嬢様の霊を思い出す。
あんなにボロボロの姿になっても強い悪意を持っていたわ。それに、高貴な方には関係ないならどうして大神官様にあれだけの霊が??
「歩けるか?」
「あっ、はい。大丈夫ですわ」
もう歩けるようになっていても、ルーシス様は身体を支えるようにエスコートする。
「では、また是非お会い致しましょう」
ゾッ……
すれ違い様、見送る大神官の顔が悪意に満ちているように見えた。
「えぇ、失礼致しますわ」
「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます。でも、本当に大神官様にもご挨拶をしなくて良かったのでしょうか」
「今回は正式な訪問ではない。もし名乗りでもすれば、あちらにも都合が悪いだろう? 今日のこと自体、なかったことにしたいだろうからな」
「なるほど……」
「それで?」
「はい?」
「僕はそもそも信仰など興味ない。どうやら大神官の言う説明と、君が視た話とではズレがあるようだが。当然、ミラを信じる。もし、神殿で何か嫌な思いをしたのなら話してくれないか?」
あまりにも当たり前のようにこちらを信じてくれると言う。
まだ会って間もないというのに、この方は……
「実は、大神官様に無数のアレが視えたんです」
「大神官に?? 石の効果は何か感じたか?」
「そのあとは気づいたら視えなくなってましたが、それのおかげか確証がなかったので、なんとも言えません。すみません」
せっかく神殿まで連れて行ってもらい、国宝級の浄化石まで出してもらったというのに、成果がなかったといは言いづらい。
うぅっ、でも嘘はつけませんし。
「ぐっ、ふふ……」
「ルーシス様?」
「いやっ、すまない。あのお高くとまっている神官達に是非聞かせてやりたいものだ。くくっ、まさか邪になるものを祓えてませんなどっ、くっくっくっ」
「わっ、笑い事ではないですわ」
「いや、くくくっ。失礼、収穫がなかったのは残念だが。少なくとも浄化石のあるヴァロアナ家では快適に暮らせたのだろう?」
「えぇ。それは」
「はははっ、まさかあの恐れられている屋敷が神殿より聖域らしいとはな!!」




