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12.大神官は断りたい

「…………」


 どう伝えたらいいものかと、次の言葉に詰まる。見るからに大神官の見た目をしたこの老人から、信頼とはかけ離れたおぞましいものがこれでもかと寄り集まっているなんて。


「どうかされましたかな?」


「いえ……」


 いつものように、目を合わせてはいけない。おびただしいアレらと。


 不自然な動きは出来ませんわ。


 貴族の令嬢らしく持っていた扇で顔を隠し、息をゆっくり整える。


 ふぅ。まさかこれが役に立つなんて。


 貴族のレディたるもの、みだりに顔をみせるべきではないなんて、一昔前の話。だが、ヴァロアナ家に関しては別だ。不必要に顔を覚えられても、デメリットの方が大きい。


「大神官、このとおり、彼女の具合が悪そうで立ち寄ったまでだ」


「おや、それはいけません。ヴァロアナ家の次期公爵夫人に何かあっては一大事……では、ご診察を……」


 大神官が向かいの席から立ちあがろうとする。


 嫌っ、なんてとても言える状況ではない。表情を崩さず、平静を装うしかない。


「大神官」


 ルーシス様の言葉に、立ちかけた大神官の動きが止まる。


「誰が近づいて良いと言った?」


「それは……ルーシス様、神聖力を使うにしてもこの距離では……ご存知の通り、ここに女性はおりませんし」


「浄化石を持ってくるだけでいい」


「浄化石ですか……しかしあれは……」


「一大事、なのだろう?」


「……そのように……少し失礼致します」


 大神官自ら取りに行くのか、応接間に2人きりとなる。


「大丈夫か?」


「どうして……」


 どうして私が嫌がっていると分かったのですか。


 そういう前に、ルーシス様は少し困ったように笑う。


「ミラが僕の名前を呼ぶのは何か必要があるからだろう? それに、そのような笑みを浮かべた表情。作り笑いとはいえ、まだ僕にも見せてないものだ。それをただの大神官が先に正面から拝むなどあってはならないと思っただけだ」


「それは、すみません?? あの、ルーシス様、あの方はやっぱり大神官様なのですよね?」


「そうだが、何か気になることでも?」


 毎日祈祷してとおっしゃる方がなぜあんなにも? それとも、大神官様ともなれば事情があるのかしら。アレで人を判断してはダメよね。


「いいえ。不慣れな場に緊張してしまっただけですわ」


「それなら良いが、僕には思ったことを話してくれ。 それと、たとえ大神官でも君のことは伏せて話すつもりだ」


 頭をなでる手はあいかわらず優しく、気持ちが落ち着くのが分かる。


「分かりましたわ」




「失礼します。浄化石をお持ちいたしました」


 大神官の後ろには、いつのまにか数人の神官が控えている。その手には厳重そうな木箱を持ち、簡単には渡せないことがひと目でわかる。


「他の者は下がらせてもらおうか?」


「〜〜っ、いえ。これは本来、持ち出しだけでも厳禁な……」


「一大事と言ってるだろう?」


 ルーシス様の言葉に、大神官は手が震えているのが分かる。



 さすがに大神官様をこれ以上困らせるわけにはいきませんわね。それに、もうアレが視えませんわ。やっぱり石の力なのかしら。


「あの、私は大丈夫です。気分も落ち着いてきましたわ」


「……そうか。さすが大神官。浄化石の効果はこうも高いとはな」


「〜〜っ、こちらは普段、厳重に神殿の祈りの()で保護されたものでございます。国の一大事にその力を解放するため、こうして力を押さえているものですが……どうやらヴァロアナ家を祝福しているようでありますな」


 なんとかこれ以上の要求がなかったことにあからさまに安堵をしているようだった。


 国の一大事にと使わられる品物が、ヴァロアナ家のためだけに置いてあるってことですわよね……


 ルーシス様を見ると、満足そうに微笑んでいる。


 絶対に極秘事項ですわね。



「ところで、その石で国の一大事を祓うほどの効果とは興味深い。具体的には何ができる?」


「邪のものを祓うと言われてますので……流行り病に災害、飢饉や干ばつなどで使用された実績がございますね」


 そんな大災害に使用されるものを使わせようとしていたなんて……


 大神官が冷や汗を流すのも無理はない。


「他には?」


「はっ、他にでございますか? あとは……王家で不穏なことがあった時に、王命で浄化石を使って一晩中祈祷したと聞いておりますが、滅多なことでは表に出せない決まりになっておりまして……」


 そう言いながらこちらをチラリとみる。祈りの間から持ち出しただけでも異例の対応だと言いたいのだろう。箱から石を出せともしルーシス様が言っていたらどうなっていたか、考えただけでも恐ろしい。


「ふむ、是非品物を見てみたいものだが」


 ルーシス様が箱に近づき、全員に緊張が走るのが分かる。


「っ!!??」


 大神官だけでなく、周りで待機する者たち全員が動揺を隠しきれない。


「ルーシス様っ、それは……」


「彼女の具合も良くなったようだし不要なことだな」


「でっ、ではすぐにこちらは片付け、何か疲れに効く薬湯でもご用意を……」


 カタンっ


「っ!!??」


「そんなに大事なものなら、油断するものじゃない。すぐにでも神殿の警備を改める必要があるね」


 そう言いながら、その手には漆黒に光を帯びる浄化石を持ちあげていた。




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