◇6
「あ、兄ちゃん」
目の前に兄貴がフランクフルート3本とビニール袋を持って歩いてきた。匂いからして、袋の中身はたぶんお好み焼きだろう。
途端、微妙に兄ちゃんの邪魔にならないように妖怪達が移動したのが見えた。やっぱり兄ちゃんには俺と態度、違うんだな。すると、俺らはいったん近くの公園に移動して、ベンチに座った。公園には誰もいない。
「ご苦労さん。疲れたか?」
フランクフルートと(やっぱり)お好み焼きを差し出すといった。
「うん、色々と……」
「でも、こいつらのことは嫌いじゃないだろ?」
「……まぁね」
砂場でタタリモッケが連れた、1歳から小学低学年くらいの子ども達が遊んでいるのを見ながら言った。
「うっし! お前らそろそろハジケていいぞ! でもほどほどに悪戯で収まる程度にしろよ。時間は丑三つ時まで!!」
「あ、もう12時か」
うで時計を見ると、あと20分弱で12時をさすところだった。結構頑張ったな、俺。明日が創立記念日でホントよかった。
いっせいにはしゃぎながら飛び跳ね、走り、方々に散っていく妖怪達。
本来なら、彼らはのびのびと存在しているはずだった。でも、今は多くの妖怪達は消えたか、なりを潜めてしまっている。彼らが存在は、人が彼らのことを思うことで成り立っている。現代の人達はそんな妖怪達の存在を、あまり考えたり思ったりしなくなった。だから自然と、妖怪達の居場所がなくなっていったのである。
今の妖怪は昔と違って、多くはフレンドリーで愛らしい者たちばかりだから、そんな彼らを俺は消えてしまわないでほしいと思っている。
「……お前ら、ま、楽しんでこいよ」
俺のつぶやきに、キムジナーが気づき、高い鳴き声で返事を返す。
ふとまわりを見ると、公園がキラキラ、まるで空の中にいるようで、色とりどりの星のような野火達で輝いていた。
「これで今日は無事終了! 後は伊成さん達が何とかしてくれるからな」
帰り道、兄ちゃんは背伸びをしながら言った。
「あーなんか急に眠くなった」
今日は初めて自分ひとりで見回りをしていたから、神経も使ったのもあって疲れた。俺はそっとあくびをかみしめる。
「智紀はまだガキだな」
笑いながら言う兄に少し、むすっとした智紀。
「ガキじゃない」
「「中学1年生は余裕でガキだ」」
……うわ、ハモらないでくれ
こうして長い一日が終わった。
後で今日のことを真帆にメールすると、ぜひ次に見回るときは一緒に行かせてと言われてしまった。ま、真帆なら妖怪達もそんなにちょっかい出さないだろう。あいつ、前会った妖怪には好かれてたみたいだし。