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脱走王女は自由でありたい  作者: 真部 朝樹
【第2章】脱走王女は恋をする

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第9話 4人の冒険者


 翌朝、ギルドへ到着した私たちは、受付の前で思いがけない二人に出迎えられた。


「おう、来たな」


 聞き慣れた声に顔を向けると、そこには長い槍を肩に担いだフリーダが立っていた。その隣には、いつもの穏やかな表情を浮かべたクルシュもいる。二人ともすでに装備を整えており、これから依頼へ出発するところらしかった。


「あれ? 二人ともどうしたの?」


「どうしたの、じゃないだろ。今日は一緒に仕事だって聞いてるぞ」


「……え?」


 私は思わず首を傾げた。


 昨日、エリナから依頼されたのは魔獣の討伐だった。タクマをポーターとして同行させることも伝えてあるけれど、フリーダたちと組むという話は聞いていない。そもそも、昨日まで二人は別の依頼に出ていたはずだった。


「二人とも、もう戻ってたんだね」


「ああ。昨日のうちに片づいたんだよ。で、今朝エリナに呼び出されたってわけだ」


 フリーダはそう言うと、私とタクマを交互に見た。


 それから、何かを察したように口元を緩める。


「……リカ。まさかお前がタクマにお熱だったなんてな」


「……え?」


「昔、男には懲りたって言ってなかったか?」


 私は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。


 タクマも隣で首を傾げている。


「……何の話?」


「なっ……何言ってるの、フリーダ!」


 思わず声が大きくなった。


 フリーダはそんな私を見て、ますます面白そうに笑う。


「おいおい、そんなに慌てるなよ。別に悪いことじゃねえだろ?」


「慌ててないし! そもそも、そういうんじゃないから!」


「へえ?」


「本当に違うんだってば!」


 フリーダは明らかに信じていなかった。


 私は助けを求めるようにクルシュへ視線を向けたけれど、彼は困ったように笑うだけだった。


「フリーダ、その辺にしておきなよ。リカが困ってる」


「お前もそう思うだろ?」


「……僕は何も言ってないよ」


 クルシュはそう答えながらも、どこか楽しそうだった。


 私は思わずため息をついた。


 どうして朝からこんな目に遭わなければならないのだろう。


 それに、昔の話を持ち出すなんて反則だ。


 あの頃の私は、自由になれたことが嬉しくて、何もかもが新鮮だった。王宮の外で暮らすことも、冒険者として自分の力でお金を稼ぐことも、誰かと気軽に酒を飲むことさえ、すべてが初めての経験だった。


 そして、世の中には親切そうな顔をして近づいてくる人がいることも、その頃に知った。


 ……思い出したくない。


 私は小さく首を振り、余計な記憶を追い払った。


「おはよう、みんな!」


 そこへ、エリナが受付の奥から現れた。


 いつもの明るい笑顔だったけれど、私と目が合うと、少しだけ表情を変えた。


「リカ、ちょっとこっちに来てくれる?」


「……何?」


 私は嫌な予感を覚えながら、エリナに近づいた。


 彼女は私の腕を軽く引き、タクマたちから少し離れた場所へ連れていく。


 そして、声を落とした。


「……リカ。昨日はあえて突っ込まなかったけどさ」


「うん?」


「タクマを安全な場所で待たせるって、何を考えてたの?」


「……え?」


 エリナは呆れたように眉を寄せた。


「魔獣のいる森で、リカが戦ってる間、誰がタクマを守るの?」


 私は口を開きかけて、止まった。


 ……あ。


「もちろん、リカが強いのは知ってるよ。大抵の魔獣なら一人で倒せるでしょう。でも、戦ってる最中に別の魔獣が出てきたらどうするの? タクマはまだ新人なんだよ?」


「……うん」


「ポーターを連れていくなら、護衛役も考えないと。普段のリカなら分かってることでしょ?」


 返す言葉がなかった。


 確かに、そのとおりだった。


 私一人なら、魔獣が何匹現れようと自分で対処できる。けれど、タクマが一緒なら話は別だ。彼にはまだ十分な戦闘能力がないし、魔法もほとんど使えない。私が討伐対象と戦っている間に、別の魔獣が彼へ近づいてきたら、守りきれるとは限らなかった。


 昨日はタクマをポーターとして連れていくことばかり考えていて、そこまで頭が回っていなかった。


「……ごめん」


 私は小さく頭を下げた。


 エリナはため息をついた。


「だから、フリーダとクルシュに声をかけておいたの。二人とも昨日の依頼が終わってたから、ちょうどよかったけど」


「……ありがとう」


「ただし、その分の報酬も必要だから、討伐数は増やしてあるよ。今日は一体倒して終わりじゃないからね?」


「うう……」


 私は思わず肩を落とした。


 エリナはそんな私を見て、少しだけ声を柔らかくした。


「……リカ、本当にどうしちゃったの?」


「……分かんない」


 正直に答えると、エリナは一瞬きょとんとした。


 それから、何かを察したように口元を緩めた。


「……そっか」


「何?」


「ううん。何でもない」


 絶対に何でもなくない顔だった。


 私はそれ以上追及するのを諦め、フリーダたちのところへ戻った。


     *


「話は終わったか?」


 フリーダがにやにやしながら尋ねた。


「……終わったよ」


「ずいぶんしょんぼりしてるじゃねえか」


「誰のせいだと思ってるの」


「さあな?」


 フリーダは楽しそうに笑った。


 その隣で、タクマが少し困ったような顔をしている。


「えっと……結局、今日は四人で行くってこと?」


「そういうことだね」


 クルシュが答えた。


「僕とフリーダが周囲の警戒と護衛を担当する。リカは主な討伐役で、タクマは素材の回収と運搬だね」


「なるほど。分かりました」


 タクマは素直にうなずいた。


 私は少し申し訳なくなった。


「ごめんね、タクマ。昨日は私、ちゃんと考えてなかったみたい」


「いや、別にいいよ。むしろ、フリーダさんたちが一緒なら安心だし」


「だろ?」


 フリーダが胸を張った。


「タクマのことは任せとけ。お前はいつもどおり派手に暴れてくれりゃいい」


「……派手に暴れたりしないよ」


「どうだかな」


 私は思わず頬を膨らませた。


 クルシュが苦笑する。


「まあ、久しぶりに一緒に仕事するんだし、楽しもうよ。リカが一人で何でもできるのは知ってるけど、たまには誰かと組むのも悪くないでしょ?」


「……うん。そうだね」


 私は小さくうなずいた。


 フリーダとクルシュは、私が冒険者になってから長い付き合いのある二人だ。特にフリーダには、まだ何も知らなかった頃から何度も世話になっている。


 昔の私がどれほど無鉄砲だったかも、彼女はよく知っていた。


 だからこそ、遠慮なくからかってくるのだろうけれど。


「……リカって、結構いじられるんだな」


 タクマがぽつりと呟いた。


「タクマまで!?」


「いや、いつもは頼れる先輩って感じだから、ちょっと意外でさ」


 タクマは笑っていた。


 フリーダが大きな声で笑い、クルシュも口元を押さえている。


 私は思わず顔を覆いたくなった。


 ……もう、今日は絶対に変なことを言わないでおこう。


     *


 今回の討伐対象は、昨日のグランボアと同じ森林地帯に出現した別の魔獣だった。


 エリナから渡された依頼書には、複数の魔獣が目撃されたことが記されている。種類はグレイウルフ。普通の狼より一回り大きく、群れで行動する習性を持つ魔獣だ。


 単体ならC級冒険者でも十分に対処できるけれど、群れになると厄介だった。仲間と連携して獲物を追い込み、隙を見て側面や背後から襲いかかってくるため、少人数での討伐は危険が大きい。


 今回は少なくとも五体以上が確認されており、ギルドからは群れの討伐を依頼されていた。


「五体以上か。まあ、四人いれば何とかなるだろ」


 フリーダが依頼書を確認しながら言った。


「そうだね。ただ、タクマがいるから、無理はしない方がいいと思う」


 クルシュが穏やかに答える。


「もちろん。タクマは俺の後ろから離れるなよ」


「はい。よろしくお願いします」


 タクマは真剣な表情でうなずいた。


 私はその様子を見ながら、少し安心した。


 フリーダはB級冒険者として十分な実力を持っているし、クルシュも魔法の扱いに長けている。二人が護衛についてくれるなら、タクマが危険な目に遭う可能性はかなり低くなるだろう。


 ……それにしても。


 昨日は自分一人で何とかなると思っていたのに、こうして改めて考えると、ずいぶん無責任なことを言ってしまったものだ。


 私は小さくため息をついた。


 フリーダの言うように、私がタクマに夢中になっているからなのだろうか。


 ……いやいや。


 そんなはずはない。


 私は慌てて首を振り、余計な考えを追い払った。


     *


 森林地帯へ到着すると、私たちはまず周囲の様子を確認した。


 昨日のグランボアがいた場所よりも少し北側で、木々の密度が高く、足元には低い草が生い茂っている。ところどころに獣道があり、魔獣が移動した痕跡も見つかった。


「……いるな」


 フリーダが低い声で言った。


 彼女は槍を構え、周囲へ視線を巡らせている。


 クルシュも杖を手に、魔力の気配を探っていた。


「少なくとも三体は近くにいると思う。もう少し奥にも反応があるね」


「うん。私も感じる」


 私はうなずいた。


 グレイウルフは群れで行動するため、一体だけを見つけても油断できない。周囲の茂みに仲間が潜んでいることが多く、獲物を囲むように動く習性がある。


 タクマは少し緊張した様子で、私たちの後ろに立っていた。


「……思ったより静かだな」


「こういうときほど気をつけた方がいいよ」


 私は小声で答えた。


「魔獣が近くにいると、普通の動物が逃げて静かになることがあるんだ」


「なるほど……」


 タクマは周囲を見回した。


 その様子を見て、フリーダが小さく笑った。


「緊張してるか?」


「……正直、ちょっと」


「そりゃそうだ。初めての討伐依頼なんだからな。でも、今日は俺たちがいる。無理に何かしようとするなよ」


「はい」


「それと、何かあったら俺の指示を優先しろ。リカが戦ってる最中に、あいつのところへ走っていくような真似はするなよ?」


「分かりました」


 タクマは真剣に答えた。


 私はそのやり取りを聞きながら、少しだけ胸が温かくなった。


 フリーダは昔からこういう人だった。


 口は悪いし、からかうのも好きだけれど、危険な場面では必ず周囲を気にかけてくれる。特に経験の浅い冒険者には、必要なことをきちんと教えるし、無理をさせない。


 私も、何度も助けられてきた。


 だからこそ、タクマを任せられるのだ。


     *


 最初のグレイウルフが姿を現したのは、それから間もなくのことだった。


 茂みの奥から低い唸り声が聞こえ、灰色の毛並みをした大きな狼が姿を現す。


 普通の狼より一回り大きく、肩の高さはタクマの腰ほどある。鋭い牙を剥き出しにし、こちらを警戒するようにゆっくりと歩いていた。


「一体……いや、二体か」


 フリーダが呟いた。


 その言葉どおり、少し離れた茂みからもう一体が現れた。


 私は周囲の気配を探った。


 さらに奥に、複数の魔力反応がある。


「……全部で六体かな」


「六体か。まあ、予定より一体多いくらいなら問題ねえな」


 フリーダは槍を構え直した。


 クルシュも杖を掲げ、魔法の準備を始める。


「タクマ、僕たちの後ろにいて。荷物はその木の根元へ置いておこう」


「はい」


 タクマは指示に従い、持ってきた袋を木の根元へ置いた。


 私は一歩前へ出た。


 グレイウルフたちは、こちらの人数を確認するようにゆっくりと動いている。すぐに飛びかかってくる様子はないけれど、少しずつ距離を詰めながら、左右へ広がろうとしていた。


 私は右手を軽く上げた。


「……じゃあ、始めようか」


 風の魔力を集中させる。


 最初に動いたのは、正面のグレイウルフだった。


 低く唸りながら地面を蹴り、こちらへ飛びかかってくる。


 私はその動きに合わせて風魔法を放った。


 圧縮した風が狼の身体を打ち、勢いよく横へ吹き飛ばす。グレイウルフは地面を転がり、近くの木へぶつかった。


 その隙に、もう一体が側面から飛びかかってくる。


「リカ、右!」


 フリーダの声が響いた。


 私は振り返らず、右手を軽く動かした。


 地面から土の壁が立ち上がり、グレイウルフの突進を遮る。魔獣は壁へぶつかり、驚いたように後退した。


「相変わらず器用だな!」


 フリーダが笑った。


 私は軽く肩をすくめた。


「このくらいならね」


 そのとき、クルシュが声を上げた。


「左から二体来るよ!」


 私は視線を向けた。


 茂みの奥から新たなグレイウルフが飛び出し、こちらへ向かってくる。


 けれど、そのうち一体は私ではなく、後方にいるタクマへ狙いを定めたようだった。


「……っ!」


 タクマが息を呑む。


 私は魔法を放とうとした。


 しかし、それより早くフリーダが動いた。


「させるかよ!」


 長い槍が鋭く突き出され、グレイウルフの進路を塞ぐ。


 魔獣は慌てて方向を変えようとしたけれど、フリーダは一歩踏み込み、槍の石突きで地面を叩いた。鋭い音に驚いた魔獣が一瞬動きを止める。


 その隙に、クルシュが魔法を放った。


 地面から伸びた蔓がグレイウルフの脚へ絡みつき、動きを封じる。


「リカ!」


「うん!」


 私はすぐに魔力を集中させ、風の刃を放った。


 鋭い風が魔獣の首元を切り裂き、グレイウルフはその場へ倒れ込んだ。


 私は残る魔獣たちへ視線を向けた。


 群れはまだ諦めていない。


 けれど、こちらの連携を見て警戒したのか、少しずつ距離を取り始めていた。


「逃がすと、また街道に出てくるかもしれないね」


 クルシュが言った。


「そうだね。ここで片づけよう」


 私はうなずいた。


 風の魔法で周囲の空気を動かし、逃げようとするグレイウルフたちの進路を塞ぐ。フリーダが槍で牽制し、クルシュが土と蔓の魔法で足を止める。


 私はその隙に、一体ずつ確実に仕留めていった。


 戦闘はそれほど長く続かなかった。


 最後のグレイウルフが倒れると、森には再び静けさが戻った。


「……終わったかな」


 私は周囲の気配を探った。


 近くに残っている魔獣の反応はない。


 フリーダも槍を下ろし、クルシュが魔法を解いた。


「お疲れさん。やっぱりリカがいると早いな」


「二人がいてくれたからだよ」


 私は素直に答えた。


 実際、タクマへ向かった魔獣をフリーダが止めてくれなければ、私は攻撃を中断して彼を守る必要があっただろう。


 自分一人で戦うのと、誰かを守りながら戦うのは違う。


 そのことを、改めて実感した。


     *


 戦闘が終わると、今度は素材の回収が始まった。


 グレイウルフからは魔石のほかに、毛皮や牙、爪などの素材が取れる。特に毛皮は丈夫で、加工すれば防寒具や防具の材料になるため、一定の需要がある。


 ただし、六体分となると相当な量だった。


「さて、どうするかね」


 フリーダが倒れた魔獣を見下ろしながら言った。


「全部持ち帰るのは無理だろうな」


「そうだね。魔石と牙を優先して、毛皮は状態のいいものだけにしようか」


 クルシュが答える。


 私はうなずいた。


「うん。それでいいと思う」


 すると、タクマが少し考え込むような顔をした。


「……ちょっといいですか?」


「ん?」


 フリーダが振り返った。


「荷物を運ぶ前に、どの素材をどれくらい持ち帰るか、先に決めておいた方がいいと思うんです」


「ほう?」


「全部解体してから考えると、結局運べないものが出てくるかもしれないので。先に優先順位を決めて、袋ごとに分けておけば、作業も早くなると思います」


 フリーダは少し感心したように眉を上げた。


「なるほどな。確かに、そっちの方が無駄は少ねえか」


 タクマはうなずいた。


「あと、重いものを一つの袋にまとめると運びにくいので、できれば重さを分けた方がいいと思います。帰り道のことも考えると、持てる量を最初に決めておいた方がよさそうです」


 私は思わず笑ってしまった。


 やっぱり、タクマはこういうことが得意らしい。


 昨日までの運搬依頼でも、荷物の扱い方や作業の順番を考えるのが上手だった。戦闘能力はまだ低いけれど、こうした段取りのよさは十分に役立つ。


「じゃあ、タクマに任せてみようか」


 私がそう言うと、タクマは少し驚いた顔をした。


「いいのか?」


「うん。もちろん、解体は私たちが手伝うけど、荷物の整理はお願いしたいな」


「分かった。やってみるよ」


 タクマは嬉しそうにうなずいた。


 それから、私たちは手分けして素材の回収を始めた。


 フリーダが牙や爪を取り外し、クルシュが魔石を回収する。私は毛皮の状態を確認し、傷の少ないものを選んで解体した。


 タクマはそれぞれの素材を袋へ分け、重さや大きさを確認しながら荷物をまとめていく。


 最初は少し戸惑っていたけれど、作業が進むにつれて手際がよくなっていった。


「……なるほどな」


 フリーダが感心したように言った。


「お前、戦いはからっきしだが、荷物の扱いは上手いな」


「ありがとうございます。前の仕事でも、こういうことは結構やってたので」


「へえ。そりゃ頼もしいじゃねえか」


 タクマは少し照れくさそうに笑った。


 私はその様子を見ながら、自然と嬉しくなった。


 フリーダがタクマを認めてくれた。


 それが、何だか自分のことのように嬉しかった。


 ……不思議だな。


 昨日、ミーナがタクマを褒めていたときは、なぜか少し面白くなかったのに。


 今日は、同じように褒められている姿を見て、素直に嬉しいと思える。


 私は自分の気持ちの違いに少し戸惑いながらも、目の前の作業へ意識を戻した。


     *


 素材の回収を終える頃には、日が少し傾き始めていた。


 タクマがまとめた荷物は、思っていた以上に運びやすくなっていた。重さを分散させ、持ち手になる部分を縄でまとめてあるため、四人で分担すれば十分に運べる量だった。


「よし。これなら帰れそうだな」


 フリーダが荷物を持ち上げながら言った。


「タクマ、なかなかやるじゃねえか」


「ありがとうございます」


 タクマは嬉しそうに笑った。


 クルシュも穏やかにうなずく。


「初めてのポーターとしては十分だと思うよ。こういう仕事は、慣れている人がいるだけでずいぶん違うからね」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


 タクマは少し照れくさそうだった。


 私はそんな彼を見ながら、ふと思った。


 タクマは、確実にこの世界で自分の居場所を作り始めている。


 最初は何も分からず、私に頼るしかなかった彼が、今では自分の得意なことを活かして仕事をしている。ほかの冒険者とも協力し、少しずつ信頼を得ている。


 それは、とてもいいことだ。


 私は心からそう思った。


 けれど、昨日のことを思い出すと、少しだけ複雑な気分にもなる。


 ……どうして、ミーナのときはあんな気持ちになったんだろう。


 私は小さく首を傾げた。


 答えは、まだ分からなかった。


「リカ?」


 タクマが声をかけてきた。


「どうした?」


「ううん。何でもないよ」


 私は笑って答えた。


「それより、今日はお疲れ様。初めてのポーター、大成功だったね」


「ああ。みんなのおかげだけどな」


 タクマはそう言って笑った。


 私はその笑顔を見ながら、少しだけ胸が温かくなるのを感じた。


 ……まあ、いいか。


 今はまだ、答えを出さなくても。


 こうして一緒に仕事ができて、タクマが楽しそうにしている。


 それだけで、十分なのだから。


 私たちは荷物を分担し、夕暮れの森をあとにした。


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