024 つけられない診断
私を迎えに来てくれたレオ様にすぐさまことの次第を報告し、発病している侍女は隔離してもらえることとなった。
幸いミランダ王女が私に依頼してくれたのが早かったおかげか、同室の侍女たちは誰も発病してはいない。
それでもどんな病気にも潜伏期間があるから、同室の子たちが数日遅れて同じ症状を出さないとも限らないのよね。
罹患していない子たちの診察を終えたあと、私は隔離された部屋に一人入室した。
念のため、いつも以上に防護体制は整えてある。
ベッドに横たわる侍女は、汗をかきながらうなされるように眠っていた。
同室の子たちからの聞き取り調査では、基本的な症状は風邪に近いとのものだった。
しかし今見た感じはそれと少し違う。
熱のせいで頬が赤くなっているというよりも、両頬に境界がはっきりとした鮮やかな赤い発疹がある。
服を少しはだけさせると、同様の発疹が腕や体、足などにもレース状に広がっていた。
風邪の症状に加えてこの発疹。
手の平などに水泡もない。
「伝染性の紅檎病ね、これは」
紅檎病は、ある意味この国特有の病気だ。
感染力が強い割には、あまり重症化することはない。
風邪の強い版みたいな感じで、子どもの頃に皆一度は罹患する。
終生免疫といって、基本一度罹った者は二度目に罹ることはまずない。
この子も隣国から連れて来た子だから、一度もこの病気にかかっていないのは何もおかしいことではなかった。
「だけど少し変ね」
そう。
紅檎病と決めつけるには、どうしても違和感があった。
今出ている症状は紛れもなくそれなのに、彼女の発熱した日から計算するとどうにも合わないのだ。
隣国からミランダ王女たちがやって来たのはたった二日前。
で、発熱は二日前からで、発疹が今日。
でもこの病気は感染してから熱が出るまでに約十日ほどかかったはず。
しかも熱が出てから発疹が出るまでの時間も明らかに短いのだ。
「発疹が出る頃にはもう熱も下がっていて、体調も良くなるはずなのに」
どう見てもこの子の症状はどれもがピーク。
熱も通常よりかなり高いことは間違いない。
「症状と病名が一致しない……」
どう見てもそれでしかないのに、私には診断をつけることがどうしても出来なかった。
「何かを見落としているのか、平行して他の病も発症してしまっているのか……」
手首から脈を取れば、かなり早いのが分かる。
でもこれだけじゃダメだ。
今は熱が高いから脈だって自然と早くなってしまうもの。
「んー。とりあえずまずは熱を下げるために体力を付けさせて、一つずつ症状を治療していくしかないわね」
王宮には父が育てた薬草たちがたくさんあるとミアが言っていた。
それを貰いがてら、一回父に相談してみよう。
これは一人で確定してしまうのは危ういもの。
誤診でもしてしまって、この子にもしものことがあったら大変だから。
私は一通り診察をしたあと、彼女の体を清拭し、服を着替えさせる。
そしてとろみを少しつけ、食塩とはちみつを混ぜた水を彼女に飲ませた。
苦しそうに肩で息をしながらも、侍女は私の手を借りながらゆっくりと水分を摂る。
むせ込む背を撫でると、ぽろぽろと涙を流していた。
「大丈夫よ、きっと良くなるから」
落ち着かせて再び彼女が眠りにつく頃には、もう外の日は落ちてしまっていた。
私は部屋をやや暗くしたあと、後にする。
部屋の前には、やや心配そうな顔をしたレオ様が待っていた。
「レオ様! どうなさったのですか?」
「ルクレツィアが中々部屋に戻ってこないと侍女たちが心配していてね。ぼくも心配になってしまったからここに来たんだ」
「お忙しいのに、わざわざ申し訳ありません」
ミランダ王女が来てからというもの、レオ様の仕事はまた極端に増えた気がする。
寝る時間だって少なくなってしまったし、最近良くなっていた目の下の隈も出来ている。
「いや、そんなことはいいんだ。疲れただろう、ルクレツィア」
心配そうに私を見つめるレオ様の瞳。
だけど私なんかよりずっと、レオ様の方が疲れた顔をしている。
また少し痩せてしまったんじゃないかしら。
せっかく少しずつ良くなっていたというのに、全部台無しじゃない。
「それはレオ様の方ですわ。最近良くなってきたと思ったのに」
「ああ、そうかな。いや、そうかもしれない。最近、ぼくにはルクレツィアが足りないからね」
急にレオ様は顔を近づけてきたかと思うと、そんな甘い言葉を私の耳元で囁いた。
体中の熱が、一気に顔に集中していく。
見なくとも、私の顔は今真っ赤になっていることだろう。
からかっているとしてもこれは……。
さすがに犯罪級よ。
「も、もう、からかわないで下さい」
「からかったつもりはないんだけど、赤くなったルクレツィアも可愛いよ」
「そういうところです!」
私が頬を膨らましてむくれて怒れば、レオ様は屈託のない顔で声を上げながら笑っていた。
ほんの少し、先ほどまでの緊張感が解けて行く気がする。
きっと私の疲れを見越して、こんな声をかけてくれたのかもしれないわね。
「ありがとうございます、レオ様。少し、疲れが飛んでいきました」
「そうかい? それならいいんだけど。でも根を詰めて無理をすることだけはダメだよ」
「それはレオ様もですよ」
お互いそんな言葉を掛け合い、また寝る時にと約束を取り付け、レオ様は仕事に戻って行った。
「さて。寝る時間まではまだあるから、もうちょっと頑張ろう」
レオ様の背を見送りながら、私は侍女のために出来ることを探すことにした。




