023 醜悪なお茶会
王宮の中庭は、午後の柔らかな日差しを浴びて、まるで絵本の中の一ページを覗き見ているように思えた。
色とりどりの花は咲き乱れ、日差しを受けた花びらが透けて見える。
その横を通り過ぎれば、風に乗って甘い香りがふわりと広がっていく。
その最奥で、お茶会が始まっているのが見える。
白いテーブルクロスに、銀のティーセット。
そして丁寧に飾られたお菓子たち。
見たこともないものまで並んでいるところを見ると、きっと隣国から持ち込んだお菓子なのだろう。
誰が見ても理想のお茶会であり、本来だったら私も参加したいと思えるほど。
だけどどうしても足が進むことはなかった。
心底行きたくない。
先ほどまで感じていた無敵感が、嘘のように集まったメンバーを見た瞬間消えてしまっていた。
最悪としか言いようのない面子。
よくもここまで集めたというか……。
やっぱりというべきなのか。
逃げ出しもせず、盛大なため息も我慢した自分を褒めてあげたいほど。
私はその開かれたお茶会を目にして、いつも以上に微笑んで見せた。
「本日はお招きいただきまして、ありがとうございます」
にこやかにそう挨拶をしたものの、案の定向こうから言葉は返ってこない。
無視するくらいならば、いっそ呼ばないでいてくれればいいのに。
そう喉元から出かけた言葉も、必死に飲み込む。
ミランダ王女がこんな風に仕掛けてくるとは想像していたけれど、問題はそこではないのだ。
「お久しぶりですね、フィオナ様」
「ホント、お久しぶりですね。ルクレツィア様」
こちらがにこやかに対応してあげているというのに、彼女は柔らかな言葉とは裏腹に殺意すら感じる視線を投げかけてくる。
この人も懲りない人ね。
自分で蒔いた種だというのに、それが分かっていないみたい。
でも、こうやってお茶会の席で二人が並ぶとよく似ているのが分かる。
やや茶褐色の肌に、髪の色。
鼻筋がくっきりした感じもそうだし、やや厚めの唇も似ていた。
前に感じたなんとなくではなく。本当にミランダ王女もフィオナ嬢も似ているわね。
「どうしてあたしがここにいるのかって顔をなさっていますが、ちゃんと正式に招待されたんですのよ」
「王女殿下とフィオナ様はお知り合いだったのですね」
とりあえず喧嘩腰なフィオナの話題を変えるため、当たり障りのない質問を投げかけてみた。
しかし私の質問は彼女にとって良いものだったのか、スラスラと自分の身の上を話し始めてくれた。
元は隣国の貴族であったこと、そしてミランダ王女の従妹であることなど。
どこまでも自慢げに話す姿が、ある意味滑稽に思える。
たまにいるのよね。
身内に偉い人がいると、さも自分まで偉い人物になったって勘違いしてしまう人。
二か国で貴族の地位を得るのは確かに凄いことだろうけれど、それでもフィオナ嬢の功績でもないわけだし。
あえて合わせたであろう広間のお茶会に似つかわしくない赤いドレスも、なんだかなぁ。
「あなたがあたしの可愛い従妹をいじめたって聞いたのだけど?」
ようやくミランダ王女が口を開いたかと思えば、無表情のままそんな質問を私に投げかけてくる。
私の対面にいる王女らのご友人たちも、王女の意思を汲むように私に冷たい視線を投げかけていた。
さて、どう返すべきか。
勝手にうちの婚約者と浮気した挙句に、托卵していた、なんて言えるわけもないし。
フィオナ嬢の名誉なんてどうでもいいけれど、真実を言ったところで信じるつもりはないんでしょう。
「いじめなど、そんなことはありません。ただ彼女に真実の愛を囁いたにも関わらず、少しの見解の相違で逃げるような男なんてやめた方がいいと言っただけですわ」
物は言いようよね。
あながち何も違っていないけれど、重要なことは何も言わないという。
「そうなの、フィオナ?」
「それは……まぁ、そうですが……」
間違っていないから否定することも出来ないフィオナ嬢は、私の言葉を認める。
ただ不服なことには変わりなく、今にも噛みつきたいような顔で私を睨みつけていた。
「だけど真実の愛なんて、そんなもの本当にあるとあなたも思っているの?」
ミランダ王女からの質問。
これはどう答えるべきなのかしら。
貴族としての正解は、きっとそんなものはなくとも、と言うべきなんだろうけれど。
ないと言ったら言ったで、揚げ足をとられてしまいそうなのよね。
んー。
そう考えて頭に浮かぶのはレオ様の優しい微笑みだった。
「どうでしょう。貴族としては愛などより大切なものがあるのは理解しておりますが、いつか結婚する以上、そこに愛があれば素敵だなとは思いますね」
「ふーん。理解出来なくはないけれど、案外この国の薬師様は子どものような方なのね」
これくらいの嫌味で済んだだけ、及第点というべきかな。
面白いお茶会だとは思っていなかったけれど、想像以上よね。
早くレオ様が迎えに来てくれないかしら。
もっとも来たら来たで、ミランダ王女がうるさそうではあるけれど。
「そうそう。今日あなたを呼んだ本題なのだけど、あたしが連れてきた侍女の一人がこの国に入ってきた途端病気になってしまったみたいなの」
侍女が病気というわりには、ミランダ王女に焦ったような様子はない。
どこまでも淡々としていて、まるで私を試しているようにさえ思える。
「この国にマトモな医者はいないようだし、うちから医者を派遣することも出来ないみたいだから診てもらえないかしら」
わざわざこんな大勢の前でこんなことを言い始めること自体、もしかすると王女たちが仕掛けた罠なのかもしれない。
だけど薬師であることが誇りである私には、断るという選択肢などあるはずもなかった。




