022 独占欲のような
いつの間に寝てしまったのだろうか。
気づけば朝になっていた。
しかし私の体には布団が丁寧にかけられ、隣を触るとシーツがほんのりとまだ温かい。
「レオ様、来てくれていたんだ」
きっと私が気づかなかっただけで、ほんの少しの時間でも隣で寝ていてくれたのだろう。
「ちゃんと眠れたのかな」
抱き枕としての役割すら果たせないほど、今は忙しいらしい。
ほんの少しでも顔が見たかったのに。
なんで熟睡しちゃったのかしら。
昨日は自分のベッドであまり眠れなかったせいか、今日はどこまでもよく眠れた気がする。
ホント、これではどちらに抱き枕が必要なのか分からないわね。
私はもう、ただ苦笑いすることしか出来なかった。
そしてもう一度レオ様が寝ていたあとに触れ、そこを撫でる。
「……仕事しよう」
どこか満たされなさを覚えつつも部屋に戻ると、私のベッドの上には小さなプレゼントの包みが一つ置かれていた。
添えられたメッセージカードには「L」の文字だけ。
「レオ様からってことよね?」
半信半疑のままプレゼントを開けると、中から珍しい藍色の石のついた髪飾りが出てきた。
私はそれを高く掲げ、ただジッと見つめる。
外から降り注ぐ朝日を受けたその宝石は、吸い込まれそうなほど深い藍色に輝いていた。
レオ様の瞳の色みたい。
「……わざわざ私のために?」
胸の奥がほんの少しだけ騒がしくなる。
もしかしたらこの宝石には、他意などないのかもしれない。
昨日着ていたワンピースが同じ色だったから、それに合わせて選んでくれただけ。
きっと、そうなのだろう。
でも……。
「好きな人に自分の色を身に付けさせる」
そんな独占欲のような話が、貴族の中ではあると聞いたことがある。
もちろんレオ様がそんな意味を込めて贈ったとは限らない。
……けれど。
もし、ほんの少しでも。
そんな気持ちが込められていたのなら――。
どこか浮ついた気持ちを抑えるように、私はそっとその髪飾りを付けてみた。
それから数時間後。
普段なら来るはずのない時間に、レオ様は私の部屋を訪ねてきた。
ただ眉尻を下げながら、困ったような表情をしているところを見ると、あまりよい件でここを訪れたのではないことがすぐに分かる。
「どうかされたのですか?」
部屋に入ってきても、言葉を考えあぐねている彼に私から先に声をかけてみた。
「すまないルクレツィア、実は……」
レオ様から出た「すまない」という言葉に私は息を呑む。
聞きたいのに、聞きたくはない。
もし想像通りの言葉が続くとしたら……。
「ミランダ王女が君をお茶会に招きたいとどうしても言い張ってね」
「ああ……」
レオ様が続けた言葉は、私にはある意味どうでもよいものだった。
一瞬「ああ、そんなこと」と言いかけて、さすがに口を閉じる。
レオ様の言葉一つで、こんなにも心が揺れるなんて思ってもみなかった。
恋を自覚してから、なんだか弱くなってしまった気がする。
みっともないなぁ。
私、そんな人間じゃなかったのに。
だいたい、あの王女様がお茶会に私を呼びたい理由なんて一つでしょう。
どうせ昨日みたいに嫌味を言いたいことなど、分かり切っているもの。
まったく……。
どれだけ私に嫌味を言ったところで、現状が変わるわけでもないというのに。
むしろレオ様への心証は悪くなることしかないのに、何がしたいのか意味が分からないわね。
そこまでして、私でストレス発散したいのかしら。
それとも、レオ様がそんなに好きだとか?
んー。べったりくっつこうとしているけれど、なんていうのかな……。
目が、恋しているって感じではないのよね。
まぁ、それも私の感想でしかないから、本心は分からないけれど。
ただ隣国にとって、レオ様がいかに好条件なのかは分かる。
顔だってカッコいいし、体形だってスラリとしていて、非の打ちどころもない。
でももし、ミランダ王女に恋心があったとしたら私勝てるのかな。
身分だってそうだし、私なんかじゃレオ様と釣り合わないのも分かっている。
もう少し背が高くて、可愛げがあったら……。
ややうつむきながらそんなことを考えていると、私が心底このお茶会を嫌がっていると勘違いしたのかレオ様が心配そうに私の顔をのぞき込む。
「君が嫌なら、やはりぼくから丁重に断っておくよ」
「いえ。大丈夫ですわ、レオ様。王女殿下からのお誘いを断るほど、私も無知ではありません」
「だが……」
「本当に大丈夫ですよ」
断ったら断ったで、きっと彼女がどう言ってくるかなど分かっている。
行っても行かなくても結果が同じならば、行った方がよいだろう。
こうやってわざわざ確認しにきてくれたレオ様の面子もあるのだから。
「お茶会は午後からですか?」
「ああ。時間はこの後からだと聞いている」
「では急いで支度をしてから向かわせていただきます」
「君を一人で行かせるわけにはいかないから、他の令嬢を同行させよう。それに頃合いを見て、ぼくがルクレツィアたちを迎えに行くよ」
どこまでもレオ様が心配してくれているのが分かる。
きっと全力でこのお茶会が嫌だと言ったら、行かなくてもいいなんて言ってくれそうな感じ。
他の令嬢が誰かは分からないけれど、少なくともレオ様は私の味方だ。
そう思えば怖いものなど何もない気がしてくる。
「お心遣い、ありがとうございます」
「いや、そんなのはいいんだ。とにかく無理だけはしないでくれよ」
「はい、レオ様」
私がそう微笑めば、レオ様は満足げに頷く。
そして部屋から退出される前、急に扉の前で立ち止まり、振り返る。
「髪飾り、似合っているよ」
どこか照れたように、レオ様は視線を合わせることなくそれだけ言い残し部屋を出ていった。
お世辞だとしても、本当に嬉しかった。
だから彼女が何を企んでいようとも負けない。
そんな気持ちになりながら、私は急いでお茶会の支度を始めたのだった。




