閑話 後悔させてあげる(フィオナ視点)
「ルドガー、あなたの子どもを妊娠したみたいなの」
「本当なのか、フィオナ!」
ベッドの中で何度も愛を囁く男にそう告げれば、彼はどんなことよりも喜んでくれた。
もちろんこの男に婚約者がいるのは知っていた。
だけどあたしには、そんなことなど関係ない。
この国でお金と地位があり、あたしに従順に従う男だったら誰でも良かったのだから。
元々この国の貴族たちを落とすために、遊び過ぎたことの自覚はある。
だけど妊娠をしてしまったのは予想外だった。
しかも遊び過ぎて相手が誰かも分からない状態。
父は激怒こそすることはなかったけれど、貴族としての責任を果たせないのならば勘当するという勢いだった。
急ぎで探し当てたにしては、この男は本当に使えた。
幼い頃からいる婚約者はただの家族でしかなく、愛情もないみたい。
欲しい物をねだれば何でも買ってくれるし、侯爵という肩書のおかげでどこに行っても優遇される。
男としてはちょっと頼りないけれど、まぁ、及第点でしょうね。
「でもルドガー、あなたには婚約者が……」
「ああ、ルクレツィアか……。でも彼女はとっても聞き分けがいいから、慰謝料さえ払えば大丈夫さ」
「お金、大丈夫なの?」
「フィオナが心配することは何もないよ」
ルドガーはそう言いながらあたしを抱きしめ、頭を撫でる。
実際慰謝料が少し勿体ないけれど、仕方ないわね。
どうせ相手は子爵令嬢だっていうし、多少のお金を積めば何も言えなくなるでしょう。
なんて、あの時は思っていたのに……。
実際はまったく違っていた。
全てが完璧だと思ったあの日、契約書を書いた瞬間あの女はただあたしたちをあざ笑っていた。
「で、そのお腹の子は誰の子なの?」
その言葉を言った時のあの女の顔が、何度だって頭をよぎる。
あとから分かったことだが、あの子爵令嬢はこの国で薬師令嬢様だと崇められている存在だということ。
彼女の一族を敵に回すということは、この国では致命傷でしかなかった。
噂とは無常なもので、すぐに父が失脚した。
父はもうあたしを助けてはくれない。
勘当とかそういうレベルではなく、このままでは一族から追放されてしまう。
「冗談じゃない!」
なんであたしだけが破滅しなければいけないの。
お腹の子どもだってどんどん大きくなっていくし、なんであたしだけが……。
これも全部全部あの子爵令嬢のせい。
ルクレツィアだっけ。
あの澄ました顔を歪ませてやらないと気が済まない。
だからこそ、あの女の弱点となるものを残っていたお金をすべてかけて調べ尽くした。
そこで分かったことが一つだけある。
あの女にとって薬師であるということが、何よりも大事だということを。
「ちょうどタイミング良く従姉も来ることだし、使えるわよね」
破滅させるには、ちょうどいい。
その肩書すら、取り上げてしまえば。
それに従姉がこの国の王妃となれば、あたしもまだこの国で生き残ることが出来る。
あたしの計画を壊したこと、後悔させてあげるわ。
ギリギリと短くなった爪を噛めば、口の中に血の味が広がっていく。
使用人すらもう寄り付かなくなった自分の部屋で一人、あたしは子爵令嬢が破滅する姿を思い浮かべていた。




