012 押しに弱い性格は
「レオ様、今、今後は……とおっしゃいましたか?」
恐る恐る私は気づいた違和感を指摘する。
「ああ、言ったよ。大事なことだろう?」
レオ様はどこまでも自信ありげに言い放ち、一人うんうんと頷いていた。
ちょっと待って?
今後って、もしかしなくともそういう意味よね。
次もあるってこと。
いやいやいやいやいや、どこをどうしたらそんな話になるの。
普通にダメでしょう。
さっきまでのこの方がマトモだと思った気持ちを返してよ。
「今後というか、次はもうないですよ」
「どうしてそうなるんだい、ルクレツィア」
「普通そうなりますよね。婚約も何もしていない男女が同じ部屋の、しかも同じベッドで寝るなんてダメじゃないですか」
「だが実際、もう一緒に寝てしまっただろう?」
「もしかして、一度も二度も一緒だとか、言ったりしないですよね?」
私がジト目で睨みつけると、一瞬レオ様は視線を逸らす。
ああ、言うつもりだったんだ。
まったく、油断も隙もない人ね。
「一応言っておきますが、変わりますからね。これでもいろんなモノがすり減っていきますから」
そう。女心とか、魂とか。あるかどうか知らないけれど。
でもきっと、そうなはず!
「いや、そのうち気にもならなくなると思うんだが……」
「なります! 絶対になります!」
もう。
人のことをなんだと思っているのかしら。
私だけがドキドキして変な感じなのに。
この方はまったく何とも思っていないのね、本当に。
そこがなんだか本当に腹が立つ。
異性として見られていないのは分かっているけれど、もう少しこう、何かないのかしら。
さすがに私ばっかり不公平じゃない?
「だがルクレツィアと寝ると悪夢も見ないし、本当によく眠れるんだ」
確かに、いつもなら二度三度起きているレオ様が、本当に一度も起きなかった。
しかも悪夢にうなされているような声も上げていない。
これはどういう効果なのかしら。
抱き枕があれば、私がいなくとも同じ状況になるとか、そんな都合のいい話ではないのかな。
「確かに、一度もお目覚めにならなかったですね。ちなみに、今まで普通の抱き枕などは試してみたことはありますか?」
「抱き枕かい? ああ、確か君の父上の提案で頭の枕を変更してみたり、抱き枕を使用してみたことはあるけど」
この言い方では、どれも効果なかったってことよね。
それなら何が良かったのかしら。
一番初めは私の匂いかと思ったのだけど、今はレオ様にも同じハーブティーを飲んでもらっている。
お互い香水などは付けていないから、基本的には同じ匂いのはず。
だったら匂いという線は消えたということ。
「人のぬくもりとかですかねぇ」
「ぬくもりかぁ」
でもそれだけだと、少し腑に落ちないところもある。
一回目はただ隣にいただけで、レオ様は眠ってしまったのだから。
あの時は体はやや密着していたものの、今日みたいに抱きついているわけではない。
ぬくもりと言うには、少し無理がありそうだ。
「今の状況だけでは、何とも言えませんね」
臨床件数が少なすぎて、断定はできない。
だけど件数を増やすっていうことは、そういうことだし。
んーー、もーーえええ。
どうするの、これ。どうしたらいいのよ、これ!
誰か私に正解を提示してちょうだい。
「断定できないのならば、出来るまででいいからもう少し付き合ってくれないか」
「ですが」
「お願いだ、ルクレツィア。君といるとなぜか本当によく眠れるんだ。しかも前に二人でうたた寝してしまった時とは比べ物にならないくらい、今日はよく眠れた。このまま君と寝れば、不眠が治るかもしれないんだ」
不眠が治る。
にわかには信じられないことだけど、実際今日その場面を一緒に体験してしまった。
だからこそ、安易に否定は出来ない。
レオ様の体のことを思ったら、引き受けるべきよね。
強い薬になど頼らず、彼を治療する方法があるのなら……。
だけど、だけど。
「もしやってみて、ダメそうならすぐに止めていい。もちろん君の名誉が守れるように配慮もする。侍女たちには朝入室してくる時間を遅らせて、その前に起きるようにして、君が部屋に戻るのはどうだろうか」
「……」
「もちろん何か不具合があった場合は、すぐにぼくが全面的に対処するし、元より問題など起こさせない。君の力が必要なんだ」
言い分はすごく良く分かるけれど、本当に大丈夫なのかしら。
問題が起きたら対処するとは言っても、問題が起きた時点で取り返しがつかなくなってしまう気がする。
「それでももし、どうしようも出来ないほどの問題が起きてしまったら」
「その時は全責任はぼくが持つよ。君には絶対に迷惑はかけないし、君の薬師としての名誉はぼくが守るから」
誰かに相談したいけれど、こんなこと誰にも相談できない。
それがどこまでも難しい。
一度きりにしたかったのに。
どんどんと断れる雰囲気ではなくなってきてしまった。
「ルクレツィア、もうぼくを治せるのは君しかいないんだ。ぼくを助けると思ってお願いだ。あと少しでもいいから、付き合って欲しい」
「……分かりました。ですがあくまでこれは治療の一環です。もし何かあった時は、きちんとそのことをレオ様の口から証明して下さいね」
「もちろんだとも!」
そう言いながら、感激したようにレオ様は私を抱きしめた。
私がこの重大な決断を、簡単にしてしまったことを後悔するのにさほど時間はかからなかった。




